2022 Fiscal Year Annual Research Report
刑事責任論の新たな潮流に対抗する伝統的責任概念の再構築
Project/Area Number |
20K13357
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
小池 直希 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 講師 (70844067)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 刑法 / 責任 / 故意 |
Outline of Annual Research Achievements |
〔2022年度の研究実績〕 本年度は、これまでの研究成果を踏まえ、さらにその具体化を図るべく、公務執行妨害罪における職務の適法性の錯誤の研究に取り組んだ。研究の過程で、日本刑法学会関西部会にて「公務執行妨害罪における職務の適法性の錯誤について」と題して報告を行った。以上の研究成果は、その前半がすでに島大法学66巻1・2号に掲載されている。また、本研究の骨格をなす刑事責任論体系の全体構想につき、瀬戸内刑事法研究会にて「故意責任の理論構造と故意の認識対象」と題して報告を行った。 〔研究期間全体の成果〕 本研究は、[A]責任の一般概念を導出し、[B]その責任概念を故意を中心とした個別の犯罪要件の解釈に反映させることを目標として掲げたが、おおむね達せられた。 [A]については、「故意の不法媒介機能」を重視する観点から、責任要素を(ⅰ)「法益侵害的心情」という責任の量的実体を形成する心理的要素と(ⅱ)その主観的帰責を反対動機形成可能性の観点から阻害する規範的要素とに二元化すべきとの結論に達した。従来の通説たる規範的責任論は、責任の量的実体を形成するものではないが、全面的に破棄されるべきものでもなく、「反対動機形成可能性がない場合には責任を問うことができない」という消極的側面においてのみ意義がある。伝統的責任概念は、このように再構成され、なお維持されるべきである。 [B]については、①未遂犯の故意の内容および②職務の適法性の錯誤という実践的問題に取り組んだ。こうした刑法上の論点において、[A]で構築した責任概念(法益侵害的心情)が、単なる抽象的理念にとどまらず、解釈論的指針となりうることを実際に例証することができた。故意の提訴機能という「ブラックボックス」に頼っていた従来の基準に比べ、本研究は、基礎理論に裏打ちされた故意責任の実質的内容を明確に言語化することに成功したように思われる。
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