2023 Fiscal Year Research-status Report
不動産所有権の取得時効――アメリカにおける敵対的占有制度の分析を素材として
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20K13362
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
善塔 章夫 上智大学, 法学部, 准教授 (10779482)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 不動産 / 所有権 / 取得時効 / 敵対的占有 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究成果として、2022年度末までに「不動産所有権の取得時効――アメリカにおける敵対的占有制度の分析を素材として」と題する論稿の一部((1)から(5)まで)の公表を終えていた。2023年度は、その続編として同タイトルの連載の(六)(七)及び(八)を、それぞれ法学協会雑誌140巻8号、140巻10号および141巻3号に掲載し、公表することができた。 (六)では、敵対的占有者の主観的態様、すなわち彼が善意であるか悪意であるかによって敵対的占有による権原の取得の可否等に影響が及ぶか、どのような影響が及ぶと考えられるかという観点から同制度をめぐる議論を整理するなどした。そこにはたとえば敵対的占有者が権原を取得するにあたっては不動産の価値を補償することを要するという考え方が含まれるところ、これは日本法の理解にとっても重要となりうるように思われる。 (七)および(八)では、日本法における不動産所有権の取得時効という制度がどのような機能を有するといえるかを検討した。本研究では、機能の検討に先立ち取得時効制度の法的効果を確認し、その法的効果との関係で、同制度の有する機能を整序・分析した。たとえば、日本法においては不動産所有権の取得時効の要件が充たされると時効取得者はその不動産の客観的価値相当額を元の所有者に対して補償することを要せずしてその所有権を取得することとなるところ、このことは、訴訟コストを抑制するはたらきを持つと考えられる。このほか、継続的な占有者に所有権を付与することによりこれから不動産を譲り受けようとする者にとっての取引コストの軽減が図られること、所有者から所有権を剥奪することにより元の所有者による返還請求が一律に排斥されて訴訟コストが引き下げられること、また、不動産に対する資源投下が行われないという事態の解決が図られうることなどを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画に比べ、研究成果の公表は遅れている状況にある。本研究の内容については、これまでに複数の研究会で研究内容を報告をする機会に恵まれた。そうであるところ、それらの研究会において他の研究者から寄せられたコメントを踏まえると、公表に先立って相当の内容を加筆し、また章立ての構成を大きく作り直すことが望ましいように思われた。そしてその作業にあたっては、計画当初の段階での想定を超えて、時間を費やすことが必要であったためである。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、現在法学協会雑誌において連載中の論稿、「不動産所有権の取得時効――アメリカにおける敵対的占有制度の分析を素材として」を完結させることがまず第1の目標である。未公表の部分は、残り2回に分けて連載を進めることを計画している。論文の内容については、その骨子とある程度の中身はすでに出来上がっている。これを丁寧に組み立て、練り上げて原稿を仕上げ、公表を目指す。
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Causes of Carryover |
当初の計画ではアメリカへ渡航した上で文献調査を行うこと等も想定していたが、新型コロナウイルス蔓延などの事情によりそれを取りやめた。その結果として、当初の計画に比べて、書籍の購入などの物品費により多くの額を使うことができるようになった。若干の繰越額が生じているのはこのためである。もっとも、この「不動産所有権の取得時効」についての研究は、固定資産税との関係で税法分野、また自然環境保全との関係で環境法分野など、当初想定していた民法研究の範囲を超えてさまざまな分野にかかわることが次第に明らかとなった。これらの分野についても横断的に資料収集や図書利用をする必要が生じたため、想定外ではあったが、結果的には必要かつ有効に研究費を活用することができている。 この次年度使用額は、主として民事法領域の書籍など物品費として使用し、また同時に「不動産所有権の取得時効」に関連する民法以外の法分野に属する文献の収集等のために使用したいと考えている。
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