2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K13365
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
木戸 茜 富山大学, 学術研究部社会科学系, 講師 (30803043)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 契約法 / スマート農業 / データ契約 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、世界的な人口増加と農業従事者の減少により、食糧安全保障問題への対応が急務となっている。私法統一国際協会(UNIDROIT)は、国連食糧農業機関(FAO)や国際農業開発基金(IFAD)と共同で長期プロジェクトを立ち上げ、農業に係る国際的法文書を精力的に公表している。このプロジェクトは、とりわけ地方の生産者と大手食品加工業者等との取引に着目し、公正かつ合理的な契約のあり方を示すことで、継続して安定的に農業に取り組むことのできる取引環境を作ることを目的としている。翻って、わが国においても農業従事者の減少や高齢化は深刻な問題であり、より生産性の高い農業を推進する取組が進められている。ビッグデータやAIを活用したスマート農業やゲノム編集を用いた品種改良などの最先端技術の活躍が期待される一方で、これらの新しい農業に係る法的課題についての議論は始まったばかりである。 本研究課題は急速に変容する現代農業に着目し、顕在化しつつある課題―持続可能な農業や、最先端技術を利用した農業に係る法整備の必要性―をふまえたうえで、食糧安全保障問題の解決につながる契約法理論を示すことを試みるものである。 本年度は、昨年度の研究成果をまとめた判例研究を紀要「富大経済論集」に掲載した。また、本研究課題の問題意識の基礎である契約両当事者間の不均衡に着目し、とりわけ継続的な契約関係における不均衡を理由とした契約責任の判断構造について学会報告を行うとともに学会誌「私法」に報告要旨を掲載した。さらに、農業分野におけるデータ利活用の契約法的課題について、その概況をまとめ、雑誌「アグリバイオ」に掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はまず昨年度の研究成果として、所属する研究機関の紀要「富大経済論集」に判例研究を掲載した。 また、本研究課題の着想の元となった博士論文について「私法学会」において個別報告を行い、雑誌「私法」に報告要旨を掲載した。本研究課題に通底する、継続的取引における契約両当事者間の不均衡に着目した契約責任判断構造について、他大学の先生方から貴重なご指摘・ご質問を受け、理解を深めた。 さらに、本研究課題のメインテーマである農業分野におけるデータ利活用の契約法的課題について、その概況をまとめ、雑誌「アグリバイオ」に掲載した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も本年度に引き続き、FAO. 2018. Enabling Regulatory Frameworks for Contract Farming: FAO Legislative Study. Rome.及びFAO and IISD. 2018. Model Agreement for Responsible Contract Farming: with Commentary. Rome.を調査対象とする。これらはいずれも、生産者を一方当事者とする農産物の直接取引を想定し、適切な契約ルールを提示するものである。また、これらの文書において引用されているウィーン売買条約やUNIDROIT国際商事契約原則も、適宜参照する。さらに、FAOが公開している農産物の取引にかかわる契約書や、国際的な仲裁例及び裁判例についても、資料の収集と分析を行う。 国内の資料としては、「情報システム・モデル取引・契約書〔第2版〕」(令和2年12月)及び「農業分野におけるデータ契約ガイドライン」(平成30年12月)を引き続き研究対象とする。 以上から得られた知見をもとに、農業分野における国際的なデータ利活用の概況をふまえ、その契約法的課題と対応をまとめた論稿の執筆を開始する。データ利活用の実態をなぞるものにとどまらず、契約当事者間の不均衡という根源的課題に通用し得る法理論の構築を試み、わが国の契約法学に還元することができるよう心掛ける。
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Causes of Carryover |
一部の書籍について割引があったこと、データベース契約において割引があったことから、想定価格との差が生じ、若干の残額が生じた。残額は次年度の文献等購入費に充てる計画である。
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