2021 Fiscal Year Research-status Report
The Balancing Approach as a Way of Thinking about the Ethic of News Reporting: A Constitutional Perspective Focusing on the Freedom of Speech, Freedom of the Press and Right to Know
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20K13382
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松原 妙華 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 特任助教 (70812626)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 匿名性 / プライバシー / 人格権・人格的利益 / 報道の自由 / 報道倫理 / 調査報道 / 内部告発 / インタビュー調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、記者に対して自主的な遵守が求められる報道倫理を、特に、〈取材源〉-〈記者・報道機関〉-〈公衆〉の関係性に着目しながら追究することを目的とし、①報道倫理に関する理論構築を試み、さらに②報道における個別具体的な倫理的課題について検討するものである。2021年度の研究実績は以下のとおりである。 まず、①報道倫理の理論構築に関しては、前年度における今後の研究の推進方策に記載したとおり、〈取材源〉-〈記者・報道機関〉-〈公衆〉の関係性を憲法における枠組みへと還元しながら表現の自由の三形態を考察するという試みを引き続き行った。特に、本年度は報道を含む表現行為がもたらす人格権やプライバシーの侵害について、憲法学や法学だけでなく哲学や政治学等の議論を精査し、法学との議論との接続を意識しながら、自由権の側面から考察するのみならず自由がもたらす負の側面からも表現の自由について考えることができた。 次に②個別具体的な倫理的課題についての検討に関しても、前年度における今後の研究の推進方策に記載したとおり、(ⅰ)実名/匿名報道および顔あり/顔なし報道と(ⅱ)調査報道(内部告発報道)における取材源と記者および報道機関の関係性という、取材・報道に関して長く議論され続けてきた倫理的課題について集中的に取り組むことができた。(ⅰ)に関しては、①の理論研究と関連させ、法学におけるプライバシーに関する議論および哲学等における物象化の議論を精査し、特にハンナ・アーレントの「現われ」の議論や仮面に関する議論に焦点を当てた研究を行った。この研究の成果として、報道における匿名性の可能性をテーマとした査読論文を提出することができた。(ⅱ)に関しては、新型コロナウィルスの感染状況を考慮しながらではあったが、調査報道において取材源となられた方々に対するインタビュー調査の遂行を大きくすすめることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要における①に関しては、〈取材源〉、〈記者・報道機関〉、読者や視聴者など〈公衆〉の関係性を憲法における枠組みへと還元し、表現の自由の三形態の関係性について考察するという試みのうち、〈取材源〉と〈記者・報道機関〉の関係性について集中的に研究を行うことができた。特に、報道による報道対象者に対する人格権侵害やプライバシー侵害等の問題について、憲法学や法学における議論を精査するとともに、哲学や政治学等における物象化やモノ化の議論と前者の法学における議論の接続を試み、言論空間を含む公的空間における匿名性の可能性について考察することができた。これは、②個別具体的な倫理的課題についての検討とも関連しており、前年度に引き続き、実名/匿名報道および顔あり/顔なし報道について、取材源保護の視点から研究を行い、①の理論研究とあわせて査読論文として提出することができた。 さらに、研究実績の概要における②に関しては、〈取材源〉と〈記者・報道機関〉の関係性についての研究において、以前から行っていた調査報道(内部告発報道)で取材源となられた方々に対するインタビュー調査の追加調査を行うことができた。新型コロナウィルス感染症の感染状況を考慮しながらではあったが、本研究で予定していた当初のインタビュー調査のうち、半数以上の事例について〈取材源〉の視点から本研究課題に関する調査を遂行することができた。 また、2021年度から報道実務家が多く所属する学会のジャーナリズム研究に関する部会に参加できることとなり、今まで以上に実務家の方々の議論や意見を身近に聞くことができる機会に恵まれた。〈取材源〉の視点からだけでなく、〈記者・報道機関〉の視点から本研究課題について考察できる環境に身をおいて研究をさらに深めることができるようになった。 以上を理由に、「(2)おおむね順調に進展している。」という評価区分にした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、2022年度も研究実施計画のとおり、表現の自由の三形態の関係性について憲法における枠組みで考察し、取材源の「表現の自由」と公衆の「知る権利」の限界および報道機関(記者)の「取材・報道の自由」の役割を明らかにする研究を行う予定である。2021年度は自由権の側面から本研究課題を考察する場面が少なかったため、その点を注意しながら、これまで調査報道(内部告発報道)を事例に考察してきた①報道倫理の理論構築に関する研究を憲法学的な枠組みへと還元していきたい。 また、②個別具体的な倫理的課題に関する検討については、2021年度に、実名/匿名報道および顔あり/顔なし報道のあり方に関する研究に集中的に取り組むことができ、人間の物象化の問題と「承認」や「尊厳」といったキーワードとの関係がみえてきたため、法学における人格権・人格的利益に関する議論の精査をさらにすすめ、人文科学における議論との接続にも挑戦したい。特に、憲法における人権尊重の思想や日本国憲法13条に規定される「幸福追求に対する権利」とプライバシーに関する議論について、報道についてももちろんであるが、人間のデータ化がすすむデジタル社会における議論への敷衍も念頭におきながら、プライバシー侵害や名誉毀損といった人権侵害の側面も含めて、研究を進めたいと考えている。 さらに、②については本年度に引き続き、調査報道(内部告発報道)における取材源と記者および報道機関の関係性に関する研究について、〈取材源〉および〈記者・報道機関〉の双方の視点から、インタビュー調査や参与観察など実証研究を積極的に行う予定である。特に、調査報道で取材源となられた方々へのインタビュー調査については、新型コロナウイルス感染症の感染状況を考慮しながら予定していた事案全てについての追加調査および文字起こし等を終え、調査結果の分析にとりかかりたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス症の感染状況により、予定していた調査の一部を次年度に延期せざるを得なくなったため、次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金については、延期した調査を2022年度に遂行するために使用する計画である。
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Research Products
(1 results)