2021 Fiscal Year Research-status Report
税制改革の比較政治ー日本とニュージーランドを中心にー
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20K13396
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 雅子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任助教 (10842148)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 税制改革 / 専門家 / ニュージーランド / タックス・リポート |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は税制改革における専門家の役割を考察するため、先進諸国の主要なタックス・リポートを概観した。本研究の主要目的である日本とニュージーランドの比較からは、次の知見が得られた。第一に、専門家会議のトップである会長には、政治的中立が推奨されることである。会長が元政治家であったり、政権との距離が近い場合には、利害関係者から反発が生じやすい。第二に、専門家会議の委員数が少人数(5-10人程度)の場合、提言は理論的整合性を重視し、長期的指針となるものの実現しにくい。他方で委員数が大人数(20人以上)の場合は、実務的提言となりやすく実現性高い。第三に、政府からの諮問である。政府が専門家会議に包括的な諮問を行う場合には、専門知識を体系的に活用できる。反対に専門家への諮問が限定的である場合、専門知識の活用に制限がかかる。第四に、専門家会議での議論の透明性が高い場合、世論の支持を獲得しやすいことである。研究成果は以下の通りである。 (著書・論文)①田中雅子(2022)『増税の合意形成―連立政権時代の政党間競争と協調』日本評論社.②田中雅子(2021)「コロナ危機と財政政策」具裕珍編『東アジア藝文書院ブックレット』18号,63-84頁. (研究報告)③Masako Tanaka, “Comparative Politics of Tax Reform: The Role of Experts in Japan and New Zealand”UTokyo Center for Contemporary Japanese Studies, Early-career Scholar Forum, September 3,2021. ④田中雅子「税制審議組織の比較―日本とニュージーランドを中心に」日本政治学会、2021年9月25日.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海外への渡航が困難なため、国内で入手可能な資料の分析に力を入れた結果、一定の成果をあげることができた。主要なタックス・リポートを概観し、先進諸国の税制改革の流れを把握したうえで、日本の政府税制調査会中期答申とニュージーランドのタックス・リポートの内容分析を行った。
日本については、政府税制調査会への諮問が、包括的委任から制限付き委任に変化していることを諮問文から明らかにすることができた。1970年代までの諮問は「社会経済の進展に即応する税制のあり方」のように簡潔な内容であったが、2000年以降は政府の方針が強調されるようになる。諮問の文字数でみても、1970年代までの平均30文字は、2000年代以降、200文字を超えている。中期答申の内容分析からは、富の配分から負担の配分が問われる経年変化を確認した。
ニュージーランドについては、包括的委任がなされた時期と、包括的な諮問がなされた時期では、タックス・リポートの内容分析からも頻出語に違いがあることを検出することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度に着手する研究の第一は、専門家会議の議事録分析である。まずは日本の政府税制調査会について、1959年以降の議事録を情報公開請求により入手し、議事経過や争点を確認する。次に発言の応酬を用いた委員間の応答を可視化し、対立と協調の構図を明らかにする。メンバー構成の変化や時代による争点の変化と照合し、専門家会議の類型化を行う。ニュージーランドについても同様の作業を可能な範囲で実施する予定である。
研究の第二の柱は、税に対する有権者の理解である。専門家会議として有権者からの意見聴取や情報発信にどのような取り組みを行ったのか、それによる理解促進の程度はどのようなものであったか、世論調査データ等をもとに分析する。有権者との対話集会や情報公開のあり方、マスメディアへの発信など、専門家会議の取り組みについて二国間比較を行う予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大に伴う渡航制限により、海外渡航費用が未使用となったため、次年度使用が生じた。政府税制調査会議事録40年分の情報公開請求費用に充当する予定である。
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