2020 Fiscal Year Research-status Report
J. S. ミルと改革の政治思想:哲学的急進派のデモクラシー論をめぐって
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20K13416
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
村田 陽 同志社大学, 法学部, 助教 (30823299)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | J. S. ミル / ジェレミー・ベンサム / 哲学的急進派 / 功利主義 / デモクラシー |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀ブリテンを代表する思想家J. S. ミルの改革の政治思想について、当該年度は、改革思想の形成期(1832年から1840年)を対象に研究を実施した。この形成期は、1832年の第一次選挙法改正直後の時期にあたる。当該時期にミルが発表したベンサムに関する論説(1832年、1833年、1838年)、プラトンの対話篇の抄訳・解説(1834年、1835年)、トクヴィル『アメリカのデモクラシー』の書評論文(1835年、1840年)、ギゾーによるヨーロッパ文明論に対する論説(1836年)、「文明論」(1836年)等を主な研究対象とした。ミルの政治思想が、改革論を経由して形成されたことは、以上の哲学、歴史、政治、文明に関する論説において看取された。すなわち、第一次選挙法改正後のブリテンにおいて、ミルは、古代(プラトン哲学)から近代ヨーロッパ文明、アメリカの民主制まで、多岐にわたる論点を対象とした議論を展開した。 一見すると、異なるテーマをミルが同時並行的に扱っていたかのようであるが、当時の政治社会が進むべき方向性を見定めるために、多様な地域と歴史を検討したことが本研究では示された。この方向性とは、デモクラシーの理念・制度に関わるものであった。デモクラシーの理論と実践が、思想家や政治家によって盛んに議論された1830年代において、ミルは、多角的な視点から民主的改革の問題を取り上げたといえる。以上の研究内容は、論文として成果発表するための準備を現在整えている。 加えて、ミル以外の哲学的急進派については、先行研究を手がかりに検討を行なった。エリー・アレヴィ『哲学的急進主義の成立』全三巻(1995年版)、フィリップ・スコフィールド『功利とデモクラシー』(2006年)を中心に、第一次選挙法改正へと繋がるベンサムの政治思想について基礎的な研究を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は、新型コロナウィルスの影響により、国外での研究活動に遅れが生じた。政治改革の知的コンテクストを明らかにするために、第一次選挙法改正に関する歴史資料を大英図書館等で収集する予定であったが、英国への渡航が叶わなかった。また、予定されていた海外での学会報告も延期となった(Sixth Biannual Conference: The European Society for the History of Political Thought)。そのため、国内の研究活動において、1832年から1840年のミルの改革論の検討は進んだが、上述の知的コンテクストとの関連性を十分に分析することはできなかった。 研究を進めていくなかで、ミルの政治改革論の独自性を明らかにするためには、ベンサムを筆頭とする他の哲学的急進派との比較が必要であることが新たに判明した。そのため、ベンサム『議会改革問答』(1809年)とそれに対する批判論文、批判論文に対する哲学的急進派のジェイムズ・ミルとジョージ・グロートによる反論を検討した。この一連の議論は、ミルが自身の政治思想を展開する以前の段階で行われた。しかし、ミルが哲学的急進派から功利主義を直接的に学んでいたことを考慮すると、第一次選挙法改正へ至るまでの言説を分析することは、ミルの政治的立場を再検討する際に有意であった。 他方、以上の新たな研究を遂行すると同時に、ミルの緻密なテクスト分析を進めることには一定の困難も生じた。よって、1832年以前の哲学的急進派と1832年以降のミルの議論を比較検討する段階までは、十分に進むことができなかった。 以上の理由により、現在までの進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、1841年から1850年にかけて、ミルの改革思想の深化を研究する。当該年度に発表されたミルの著作を主たる分析対象とし、当時の英国政治史をめぐる知的コンテクストにも着目する。すなわち、どのような時代背景のもとで、ミルが政治改革論を展開したのかについて明らかにする。なお、前項「現在までの進捗状況」で示したように、新型コロナウィルスの影響により令和二年度に実施できなかった英国での資料収集も今後実施予定である。加えて、前年度に着手したミル以前の哲学的急進派の改革論についても、引き続き先行研究の整理と一次資料のテクスト分析を進める。 今後は、令和二年度以降の研究結果をふまえた成果公表を予定している。具体的には、① ミルの改革思想の形成と深化に該当する時期を分析対象とした論文、② ベンサム『議会改革問答』(1809年)からミルの初期改革論(およそ1840年まで)へと至るまでの哲学的急進派の政治改革論の争点・特徴を明らかにした論文、以上二点の発表を計画中である。以上の成果を通じて、本研究の後半(令和四年度以降)へ向けた準備を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
当該年度は、第一次選挙法改正に関する歴史資料を大英図書館等で収集する予定であったが、新型コロナウィルスの影響により英国への渡航が叶わなかった。また、同理由により、予定されていた海外での学会報告も延期となった(Sixth Biannual Conference: The European Society for the History of Political Thought)。そのため、当初旅費として使用する予定であった分を次年度に使用することとした。延期された当学会報告は、令和三年度に開催予定である。資料収集に関しても、英国への渡航および大英図書館の外国人利用が可能になった段階で実施する。よって、翌年度は、以上の延期となった海外での研究活動も実施する予定である。
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Research Products
(1 results)