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2021 Fiscal Year Research-status Report

ウィーン体制の実証的史料分析を通じた多極構造における国際秩序形成の研究

Research Project

Project/Area Number 20K13421
Research InstitutionKanto Gakuin University

Principal Investigator

矢口 啓朗  関東学院大学, 人文科学研究所, 客員研究員 (10821861)

Project Period (FY) 2020-04-01 – 2024-03-31
Keywords東方問題 / ウンキャル・スケレッシ条約 / 海峡協定 / コミットメント問題 / ニコライ一世 / ロシア外交史 / ウィーン体制
Outline of Annual Research Achievements

本年度(2021年度)は、基本的に国内での文献調査と刊行資料の読解を主な研究作業とし、学術雑誌『ロシア・東欧研究』への投稿を目標とした。当初計画においては、1833年7月8日の露土同盟であるウンキャル・スケレッシ条約の締結過程におけるイギリスファクターについて、ロシア側の未刊行史料を活用して考察しようと考えていたものの、昨今の新型コロナウィルス蔓延とロシア―ウクライナ戦争のために、計画していた史料調査が不可能となった。そのため、これまでに収集した未刊行史料と刊行史料を活用して、ロシアの外交官・皇帝・陸軍軍人などの政策決定者がウンキャル・スケレッシ条約によってもたらされた安全保障政策上の課題とその解決策をどのように考えたのか、国際関係論における理論であるコミットメント問題を分析枠組みとして論じることとした。
使用した史料は、ロシア帝国外交政策公文書館などに所蔵された外交文書に加えて、19世紀に刊行されたノヴォロシア総督ヴォロンツォフとロシア人外交官とのやり取りが収録されたАрхив Князя Воронцова、当時の駐露フランス大使の書簡が収録されたSouvenirs du Baron de Barante、また近年刊行されたロシア陸軍中将ムラヴィヨフ・カルススキーの日記である。
先行研究においては、ロシアが同盟条約で得たオスマン帝国への影響力の増減が注目されていたのに対して、本研究においては、ロシアが安全保障上のパートナーとなったオスマン帝国をどの程度信用していたのかについて注目した。その結果ロシアは、オスマン帝国の軍事的な能力をほとんど信用しておらず、むしろ黒海沿岸地域の安全がイギリスから脅かされていると感じるようになったと論じた。そしてパートナーとして信用できないオスマン帝国に代わって、ヨーロッパ5大国の合意を通じて黒海沿岸の安全を確保しようとしたと論じた。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

本年度のウンキャル・スケレッシ条約に関する研究は、ウィーン体制の安定における国際会議の機能に関する研究の一部をなしている。ウンキャル・スケレッシ条約は、ロシアとオスマン帝国の二国間の同盟条約であり、国際会議を経てヨーロッパ5大国の承認を得た条約ではなかった。ロシアは、オスマン帝国の防衛を目的とする同盟条約であれば、他の国の反発を受けることはないと考えていたものの、5大国の一員であるイギリスによる条約への猛反発を受けたことによって、当初の見通しの甘さが判明した。以後イギリスは、ロシアによるオスマン帝国への影響力拡大への巻き返しを図るべく、度々海軍を黒海に派遣する姿勢を示した。これによってロシアは、ダーダネルス海峡の戦時における外国軍艦の通航禁止を定めたウンキャル・スケレッシ条約で得られるはずであった、黒海沿岸地域の安全をイギリスの反発によって脅かされることとなった。
こうした中でロシアは、ボスポラス・ダーダネルス両海峡の外国軍艦通航を禁止して、黒海沿岸地域の安全を守るためには、二国間同盟よりも多国間条約によって、ヨーロッパ5大国の同意を得た方がより確実であると考えるようになった。そのためにロシアは、ウンキャル・スケレッシ条約を放棄するだけでなく、1839-1841年にロンドンで開催された国際会議に参加して、ボスポラス・ダーダネルス両海峡の平時軍艦通航禁止を定めた海峡協定の締結をイギリスとともに主導することとなった。
今年度新たに判明した知見からは、二国間同盟よりも5大国全ての参加した国際会議を通じて締結された多国間条約の方が信頼性で勝っていると当時の大国が考えていたことが分かった。このことは、ウィーン体制における5大国にとって、国際会議がコミットメントの信頼性を高めていることを示したと考えられる。

Strategy for Future Research Activity

次年度(2022年度)においては、新型コロナウィルスの感染状況やロシア―ウクライナ戦争の戦況次第ではあるが、諸外国の公文書館で外交書簡などの未刊行史料を入手した上で、1848年革命やクリミア戦争を巡るヨーロッパ国際関係について考察していく。
主にロンドンのイギリス国立公文書館やモスクワのロシア帝国外交政策公文書館などにおいて、1848年からシュレスヴィヒ=ホルシュタイン問題を巡って開催されたロンドン会議や、1853年にロシア軍のルーマニア進駐を巡って開催されたウィーン会議などに関する外交官の書簡などを収集する予定である。
他方で、ロシアにおける史料調査が難しい場合には、イギリスなどでの史料調査と併せて、ロシアの駐プロイセン・オーストリア大使であったマイエンドルフの刊行史料Peter von Meyendorff: ein Russischer diplomat an den hoefen von Berlin und Wien; politischer und privater briefwechsel 1826-1863, vol. 1-3や、ロシア外相のネッセルローデの刊行史料Lettres et Papiers du Chancelier Comte de Nesselrode, 1760-1850, vol. 9-11などを活用して、ロシアの国際会議に対する関与を検証する。
次年度においては、ウィーン体制の後期における国際会議が、ヨーロッパ国際秩序の安定にどのように寄与したのかについて論じるだけでなく、最終的にクリミア戦争へとつながったウィーンでの会議の事例から、当時の国際会議の限界についても考察していく。

Causes of Carryover

本年度は、新型コロナウィルスの蔓延に加えて、12月から始まったロシア―ウクライナ危機、さらには2月に始まった戦争の影響によって、予定していたロシアやイギリスなどにおける史料調査が不可能になった。そのため、主に国内での刊行史料や先行研究の購入に研究費を使用したものの、旅費についてはほぼ使うことができなかった。このため本年度においては、多額の次年度使用額が発生することとなった。
次年度においては、新型コロナウィルスの蔓延に伴う出入国制限が緩和された場合、夏と冬のロンドンなどでの公文書館における史料調査を予定している。併せてロシア―ウクライナ戦争の戦況次第ではあるが、モスクワでの史料調査も行う予定である。実質的に2年間外国での史料調査が不可能になっていた関係上、余っている研究費を外国への旅費や史料の印刷費として用いる。

  • Research Products

    (2 results)

All 2022

All Journal Article (2 results) (of which Peer Reviewed: 2 results)

  • [Journal Article] 一八三〇年代の四国同盟2022

    • Author(s)
      矢口 啓朗
    • Journal Title

      国際政治

      Volume: 2022 Pages: 206_17~206_33

    • DOI

      10.11375/kokusaiseiji.206_17

    • Peer Reviewed
  • [Journal Article] 1830年代のロシアの安全保障政策2022

    • Author(s)
      矢口啓朗
    • Journal Title

      ロシア・東欧研究

      Volume: 50 Pages: ―

    • Peer Reviewed

URL: 

Published: 2022-12-28  

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