2021 Fiscal Year Research-status Report
The Swedish two-sided neutrality and the hidden alliance with the West during the Cold War: Analyzing the role of Olof Palme
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20K13436
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
清水 謙 立教大学, 法学部, 助教 (60846202)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 冷戦史 / スウェーデン政治外交史 / スウェーデンの西側軍事協力 / NATO / 政軍関係 / オーロフ・パルメ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は新型コロナウイルス感染症とロシアによるウクライナ侵攻によって海外に渡航しての文書館での史料収集は困難であった。それでもなお、スウェーデンの政治外交史、安全保障政策の変遷などに関する文献は多く収集し、それら二次文献を利用して研究を進めることは出来た。 本年度は、バルト=スカンディナヴィア研究会2021年5月例会において、「暗殺の瞬間―スウェーデンの対米関係とオーロフ・パルメの時代」と題した研究発表を行い、本研究の成果を示した。パルメ首相はスウェーデンを代表する政治家として内外に知られているが、スウェーデン国内では他の政治家と違って類を見ないほどその評価が大きく分かれている。その主要因は、「積極的外交政策」と「労働者基金」に求められることがこれまで多かった。本研究はパルメの対外政策 に着目するため「積極的外交政策」への評価に力点を置く。同外交政策で軍縮、人権などでも世界平和に貢献はしたが、同時にベトナム戦争による反戦運動を後ろ盾にしたものでもあった 。これについては、穏健連合党党首ユスタ・ボーマンは、パルメ外交は内政的な目的のために国際問題などを利用して対外政策を決定しているにすぎず、スウェーデンの利益と国際社会でスウェーデンが担う役割を損なうと批判している。たとえば、パルメは対米関係を悪化させ、駐米大使を接受拒否されるなど「霜の時代」と呼ばれるほど両国関係が冷却化したのも確かである。しかしながら、パルメ外交は決して「反米主義」によるものではなく、自身の権力リソースを強化するための手法でもあり、パルメ政権期においても西側との軍事協力関係が維持、強化されたことが本研究でも確認することができた。また、パルメの生い立ち、権力への道、権力構造なども整理することによって、なぜパルメが対米関係を悪化させながらも軍事的協力関係は維持できたのかについて、その要因を明らかにしつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は新型コロナウイルス感染症の感染拡大とロシアによるウクライナ侵攻によって予定していた現地での史料収集は不可能であったが、二次史料や文献などを入手することで、スウェーデン本国におけるパルメ研究の最新の研究を押さえている。 バルト=スカンディナヴィア研究会2021年5月例会において行った「暗殺の瞬間―スウェーデンの対米関係とオーロフ・パルメの時代」では、パルメ政権の権力構造、スウェーデンのメディア構造の変化を示すとともに、ベトナム戦争をめぐるアメリカとの外交関係の冷却化の要因を論じた。対米関係は悪化させながらも、安全保障の面ではアメリカをはじめとするNATOとの軍事協力関係は堅持しており、パルメの「積極的外交政策」によって対米関係の冷却化を招きながらも、パルメが前政権から引き継いだ西側との軍事協力関係は変わらず維持されたことを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、ヨーロッパでの現地調査を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の終息が見えない上、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、現地での史料調査は引き続き困難な状況にある。しかしなお、二次史料を入手しながら本国の最新の研究を把握し、本研究独自の切り口から引き続き、スウェーデンと西側との軍事協力関係に迫り、オーロフ・パルメの役割を明らかにしていく。 同時に、ロシアによるウクライナ侵攻によって、スウェーデン、フィンランドがNATOへの加盟を加速化させているが、これも本研究をさらに発展させるにあたって重要な動向であることから、現状の分析から本研究のテーマをより立体的にしていく考えである。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大とロシアによるウクライナ侵攻によって、現地の文書館等での史料収集が不可能であったため次年度に繰り越した。感染状況とウクライナ情勢を見極めながら、できるだけ早期に現地での調査を行い、その調査費用に充てる予定である。
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