2022 Fiscal Year Research-status Report
The Empirical Analysis on Relations between Globalization and Executive Compensation
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20K13473
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
桑波田 浩之 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (40782785)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 経営者報酬 / 不平等 / グローバリゼーション / 企業ガバナンス / インセンティブ報酬制度 / 労働組合 / 操作変数法 / 企業データ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はグローバリゼーションと経営者報酬と社員の給与の格差の関係を明らかにすることである。その際、2008年にアメリカで生じた世界的な金融危機が日本の各企業にとって外生的な負の需要ショックであったことを利用した準自然実験によって実証分析を定式化した。金融危機の後、2009年の日本の国内需要は4%程度しか低下していない一方、日本の輸出額は大幅に減少しており、負の需要ショックは輸出企業と国内企業に非対称な効果をもたらした。本研究では企業の輸出比率を処置変数として、金融危機の前後で差の差の分析を用い、負の需要のショックが経営者と社員の報酬格差に与える影響について検証を行った。 2006年から2012年の7年間の企業レベルのデータを用いて、金融危機の後、社員の給与は減少する一方で、経営者の報酬は統計的に有意な変化は観察されず、経営者と社員の格差が拡大していることを明らかにした。この分析結果は、製造業へのサンプルの限定や、流動性、インセンティブ報酬、労働組合の変数のコントロールを行っても頑健性が維持された。また同業種の輸出比率を操作変数に用いた分析においても同様の結果を得た。 これらの結果は負の需要のショックが、社員の給与よりも経営者の報酬に対して感応度が小さいことを表しており、先行文献の Bertrand and Mullainathan (2001) らの研究と整合的である。企業ガバナンスの欠如や経営管理スキルへの需要増などの要因について検討を行ったが、メカニズムまでは明らかになっていない。分析結果について経営者報酬だけに絞った論文を Applied Economics Letters に投稿し、採択された。また、社員の給与についても検証を加えた論文を国際誌に投稿し、現在査読中となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年に当初計画していた分析を終え、複数の国際誌に投稿を行った。このうち、2022年度に Applied Economics Letters より採択を受け、論文の掲載が決定した。他の雑誌の査読者からはコメントを得て、現在、論文の改定を行っている。 改定では、日本の不平等の状況やデータに関する説明を加えるとともに、分析手法についても改善を図った。差の差の分析法に関して、平行トレンドの仮定が成立しているか検証を行うとともに、内生性に対処するため操作変数を用いた推定を行った。企業の輸出の操作変数として、同じ業種の輸出額を用いた分析を実施している。加えて、企業レベルの固定効果を全ての推定式に加えたほうが良いという指摘を受け、定式化の修正も行っている。外国人の経営者の報酬が高くなる傾向があり、この要因をコントロールすべきという意見も出されたため、外国人株主比率のデータを用いた分析も実施している。2022年度は、上述の分析やデータの見直しを行ったが、2023年4月に研究代表者が大学を移動することもあり、これらの改定に時間を要した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、社員の給与に加え、経営者の報酬についても検討を加えた論文を国際誌に投稿中であり、査読者からのコメントを受けて、逐次、論文の改訂を進めて、論文の掲載を目指す。必要に応じて追加的なデータの収集・分析を行うことを予定している。特に操作変数については、現在使用している同業種の輸出比率に加えて、Bartik-type の変数を用いることが出来ないか検討する。更に先行研究の精査を進めて、本研究の位置づけを既往研究の中で明確する必要がある。
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