2020 Fiscal Year Research-status Report
開発途上国における「政策効果の異質性」に関する研究
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20K13497
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
若野 綾子 東海大学, 政治経済学部, 特任講師 (80837112)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 初等教育の無償化 / 教育投資 / 出生数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「政策効果の異質性」に関する実証的検証を第一の目的としている。主に取り上げる、政策は開発途上国における初等教育の無償化である。開発途上国では、1990年代以降にエチオピア、マラウイ、ウガンダに加え2000年代以降サハラ以南のアフリカ諸国にて15か国が授業料を廃止した(UNESCO, 2015)。またアフリカ諸国以外でもカンボジアやベトナム、ネパールなどの国々でも初等教育無償化制度が導入された。
今年度は「政策効果の異質性」に関する研究として、「無償化制度」の廃止に焦点をあてた。多くの開発途上国では初等教育無償化制度の導入によって、女子教育年数は平均的に上昇した。ただし、その無償化政策の廃止を経験した国は少ない。ケニア共和国は、1988年に本無償化を廃止し、この時点で、女子教育年数は不連続に減少した。この政策変更をうけ、2020年度では、女子の教育年数が生涯出生数と子どもの教育投資にどのような影響を与えたかを推定した。
既存研究では、開発途上国における女子教育の影響を推定した実証論文は数多い。特に、女子教育が出生時期や出生数に与えた影響は数多く検証されてきている。また女子教育によって出生した子どもの乳幼児の健康状態や母子保健への影響を捉えた実証論文も多い。しかし、本研究は女子教育が生涯出生数を減らし、また出生した子どもの教育投資を増やす両方に影響を与えていることを実証した点で、希少である。本研究はすでに、査読付き海外雑誌に投稿中である。2020年12月には『Taiwan Economic Association』Annual Conference 2020(国際学会)にて報告を行った。2021年7月には『the World Education Research Association (WERA)』2020+1 Focal Meetingにて研究報告を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は「政策効果の異質性」に関する実証的検証を第一の目的としている。大きく分けて「研究①」と「研究②」の研究を行う予定であり、研究①は「初等教育の無償化制度」に関する「政策効果の異質性」を各国のデータから検証する。初等教育無償化によって教育コストが減少した家計は、教育投資を行ったがその効果には各国で異質性が存在するか、を検証する。研究②では、ケニア共和国に特化し、「無償化」の導入と「無償化」の廃止における「政策効果の異質性」を検証することだ。
研究①の進捗では、複数国における同一の政策効果を推定し、その国ごとの異質性を検証することであった。こちらの研究に関しては、いずれも各国に共通する家計の個票データセット(Demographic and Health Survey Dataset)の収集が完了している。すでに結合作業に入っている段階である。
研究②の進捗では、ケニア共和国のデータを使用する予定である。2020年度では、本研究の準備として無償化の廃止を契機に教育年数が減少した女性に焦点を当てて分析を進めた。無償化の廃止により長期的に出生す教育年数が平均的に減少した影響は、長期的な出生数や子どもへの教育投資に影響を与えたことが分かった。本論文はすでに海外査読付き雑誌に投稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、次の予定で研究を進める。
「研究①」に関しては、すでに家計の個票データセット(Demographic and Health Survey Dataset)の収集が完了し結合作業に入っている段階である。このデータを使用してデータ解析を進め、実証結果をまとめたうえで、Working paperとして発表する。また2022年度の国際学会にて発表するために投稿する予定である。
「研究②」に関しては、現在推定が完了しており論文を執筆している段階である。本論文に関しても今年度中に執筆を完了して、国際学会での発表を行うために投稿をする予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度は、海外出張および研究出張の回数が制限されたことが原因で、予算進捗が大幅に遅れた。加え、海外出張時に使用することができるPCやそこにインストールするための東海解析ソフトは2021年度に購入予定である。論文執筆を進めた結果、英文構成のための予算消化は順調であった。
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