2021 Fiscal Year Research-status Report
介護保険制度における恣意的な給付水準の割り当てに関する研究
Project/Area Number |
20K13508
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
高橋 雅生 一橋大学, 社会科学高等研究院, 特任助教 (20864599)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 介護保険 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、介護保険における恣意的な給付水準の操作が介護費にどのような影響を与えているのかを明らかにし、公平で持続可能な介護保険制度の構築に貢献することを目指す。様々な社会保障制度において、公的な給付の対象となる人々を絞り込む目的でミーンズテスト(資力調査)が行われている。ミーンズテストの結果によって給付の対象となるか否かや給付額が決まるため、ミーンズテストを行う側には結果を恣意的に操作するインセンティブが働く可能性がある。そのため、現状の社会保障制度において給付の恣意的な操作が起こりうるのかどうかを明らかにすることで、その制度が公平に機能しているのかを検証することが可能となる。 介護保険では、要介護認定員(以下「認定員」)による介護必要度の評価によって利用者への給付水準が決定されるが、外部から個別の認定の妥当性を検証する仕組みが存在しないため、認定員によって恣意的に給付水準が決定されている可能性が指摘されてきた。東京近郊の自治体から得た要介護認定データを解析したところ、利用者の要介護区分が現状から下がらないように要介護度が設定されていることを示唆する結果を得た。本研究では、恣意的な操作がされていない場合の介護必要度の分布を一般的な仮定のもと復元し、観察される分布と比較することで給付水準の操作が介護費と利用者の健康に与える影響を推定する。2021年度では、特に介護必要度の恣意的な操作が行われるメカニズムについて分析を進めた。これまでの分析結果によると、利用者やケアマネージャーの属性によって上記の操作が大きく影響されることがないことが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
介護保険における恣意的な給付水準の操作が介護費に与える影響を推定するために、昨年度に引き続き推定方法の開発とデータへの実装の両方を進めた。既存の推定手法では、給付水準の操作がない場合の介護必要度の分布を構築するためには、特定の関数系を定めるなど強い仮定が必要であった。昨年度までに考案したノンパラメトリック推定の方法をより洗練させ、より一般的な仮定のもとで分布を導出する方法を開発した。この新しい手法を実際のデータを用いて推定したところ、恣意的な給付水準の決定により少なくとも5パーセントほど介護費が上昇しているという結果を得た。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度は本プロジェクトの最終年度にあたるため、研究の完成と論文の国際学術雑誌への投稿を行う。実証面においては、介護必要度の操作が起こるメカニズムを明らかにすることを目指す。これまでの分析によって、利用者やケアマネージャーの属性が介護必要度の操作に大きく影響することがないことが明らかになった。どのような場合に上記の操作が起こりやすくなるのかをより詳細に分析することで、操作のメカニズムと公平な介護認定制度の構築に関する示唆を提供できるように分析を進める。また、学会発表などを通してこれまでの研究成果を積極的に発信し、そこで得たフィードバックを分析に反映させる予定である。
|
Causes of Carryover |
端数として発生した残額分は、文房具等の購入に当てる予定である。
|