2020 Fiscal Year Research-status Report
Policy evaluation on long-term care and employment in an aging society
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20K13511
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
明坂 弥香 大阪大学, 社会経済研究所, 助教 (40844593)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 高齢者 / 夫婦の労働供給 / 高年齢者雇用安定法 / 年金サイクル / リスク選好 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究プロジェクトでは、高齢者を対象とした政策の効果分析を行っている。 2020年度は,(1)高齢夫婦の労働供給の補完性に関する分析と、(2)年金の支払いサイクルによるリスク選好の変化に関する分析を行った。
(1)では、高年齢者雇用安定法の導入を受けて、夫婦いずれか片方の退職年齢が上昇した時、直接に政策変更の影響を受けない配偶者も労働供給行動を変えるのか検証した。年金の受給開始年齢は等しいが、法定退職年齢に3歳差があった(60歳と63歳)、1945年生まれと1946年生まれとを、就業構造基本調査を用いて比較した。制度変更によって夫婦の退職パターンを分析した先行研究では、年金受給開始年齢引き上げによる効果を調べている。しかし、年金受給開始年齢の引き上げは、家計に直接負のショックを与えるため、制度変更の影響を受けた夫婦の片方の労働供給の変化に反応して、その配偶者も労働供給を変化させたのか、家計に生じた負のショックを補填するために労働供給を変化させたのか区別することが出来ない。本研究では、直接労働供給行動を変化させ、家計には寧ろ正のショックをもたらす政策変更を用いることで、夫婦間の労働供給の関係性を直接的に観察することが出来る。分析の結果、夫の退職年齢の延長は妻の退職時期を遅らせることが明らかになった。 (2)では、アメリカのHRSと日本のJSTARのデータを用いて、年金の受給サイクルによって高齢者のリスク選好が変動していることを明らかにした。伝統的な経済学では、人の選好は一生を通して一定であると考えられてきた。しかし、近年の行動経済学における実証研究によって、金融危機や震災など大きなショックを経験すると、個人の選好がシフトすることが明らかにされている。本研究は、大きなショックを用いた研究とは異なり、何度も経験する小さなショックによっても選好が揺れ動くことを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1の研究では、一橋大学のオンサイト利用によって、就業構造基本調査にアクセスして分析を行い、その成果を大阪大学OSIPPにおけるランチタイムセミナー等で報告した。この結果を、現在日本語論文としてまとめる作業をしている。最終的には、改訂の上、国際学術誌へ投稿する予定である。再度分析をやり直す必要があるが、新型コロナウイルスの流行下において、オンサイト利用で分析した結果を持ち出すプロセスにかなりの時間を要することが、今回の利用で明らかになった。そこで、統計法33条に基づくデータ利用申請を行い、そのデータを使って分析をする予定をしている。 2の研究では、セミナー報告等を行い、分析結果を論文にまとめ、NBERワーキングペーパーとして公開するに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度には、1の研究では、オンサイト利用で得られた結果をもとに、日本語のワーキングペーパーを執筆し、データ利用に対する成果報告を行う。その後、統計法33条に基づき、就業構造基本調査の再申請を行って、結果を英語の論文としてまとめ、国際誌に投稿する。2の研究は、国際誌への投稿作業を行う。1,2の研究とは別に、最低賃金の引き上げが高齢者に与える影響の研究を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス流行に直面し、予定していた出張およびアルバイトの雇用ができなかったために、財源を繰り越すことになった。2021年度以降、大学による活動規制が徐々に緩和されることが予想されるため、2020年度に執行できなかった国会図書館への情報収集を目的とした出張やアルバイト雇用のために資金を財源を利用する。
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