2022 Fiscal Year Research-status Report
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20K13541
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
佐藤 淳平 岡山大学, 社会文化科学学域, 准教授 (50792496)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 財政 / 軍事 / 南京国民政府 / 北京政府 |
Outline of Annual Research Achievements |
8月23日に開催された明清史夏合宿2022において、「近代中国の財政と軍事」というテーマで研究報告をした。同報告では、北京政府期、特に袁世凱政権後に見られた、各省の長官が軍事権と財政権を掌握し、中央政府が弱体化し分権化していく傾向が、南京国民政府により再び集権化へと向かった理由について財政と軍事の面から解明した。清末民初の軍事費の推移や、北京政府末期の中央政府、省政府レベルでの軍縮の動き、南京国民政府初期の軍縮の動きについて言及し、北京政府期に北京政府と連省自治派のエリート層が兵員数の削減が必要であるという認識で一致していたこと、南京国民政府が国軍編遣会議において兵員数削減の方針を明確に示したこと、長引く内戦のため、中国の軍隊が陸軍に偏重しており、国防に十分に対応できる能力を欠いていたこと、当時の中国の財政規模が小さかったため、歳出に占める軍事費の割合は高かったものの、列強の軍事費と比べれば必ずしも多額ではなかったことを指摘した。コメンテーターから、ブリュアの財政軍事国家に準えて当時の中国も財政軍事国家と言えるのかという問いかけがあった。これに対して、国民の所得を把握する能力が中国はイギリスに遠く及ばなかったことや、国家の信用力が十分に確立されておらず、国債の返済が滞ることがあったことなどが議論された。 また金子肇『近代中国の国家と商人』(有志舎、2022)の書評を『図書新聞』3571号に執筆した。同書は主に上海の同業団体による徴税請負を分析対象としている。上海市档案館所蔵の未公刊史料を積極的に活用したことを評価しつつ、あくまでも上海の特殊な事例である可能性が高いことや、銀行公会や銭業公会といった金融業の同業団体に対する言及がほとんど見られず、財政史や金融業の同業秩序という文脈から十分に研究の位置づけがされていないといった問題点を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大に伴う中国の入国制限措置および公文書館における閲覧制限の影響もあり、南京の公文書館における史料調査は未だに実施できていない。一方、台北の国史館などのウェブサイトにおける史料収集と『善後会議公報』や『歳計年鑑』といった公刊史料の読解を進め、昨年8月に明清史夏合宿2022で研究報告をした「近代中国の財政と軍事」を基に学術雑誌への投稿を目指して論考を準備している。
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Strategy for Future Research Activity |
中国の入国制限措置は徐々に緩和されており、中国到着後のPCR検査及び集中隔離が不要になったため、ビザの申請と南京の公文書館における史料閲覧が許可されれば、現地での史料調査が可能な状況となった。現地での史料調査を実施し、その成果を組み入れた形で、「近代中国の財政と軍事」に関する研究成果の公刊を目指す。国民政府主計処が軍事費の問題を論じる際に列強との国際比較を行っていたことが史料から看取されたため、列強の軍事費に関する研究成果や当該国の史料も必要に応じて分析対象に取り入れる予定である。
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Causes of Carryover |
2022年度は新型コロナウイルス感染拡大のため、南京の公文書館において史料調査を実施できなかったため、次年度使用額が生じた。ビザの申請と南京の公文書館における史料閲覧が許可されれば調査を実施する予定であるが、万が一実施できなかった場合は公刊史料集の購入費に充てる予定である。
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