2020 Fiscal Year Research-status Report
日本企業における経営者交代の影響に関する再検討:意思決定への影響と責任に注目して
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20K13553
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
渡辺 周 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 講師 (90754408)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 経営戦略 / 経営組織 / 経営者 / 経営陣 / 意思決定 / 撤退 / コミットメント・エスカーレション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,事業の見直しに経営者交代が与える影響を理論的・実証的に検討することにある.2020年度は初年度ということもあり,事業の見直しの中でも,撤退の意思決定に注目し,それに対して,経営者交代などコーポレート・ガバナンスが与える影響を検討する意義を明確化する作業を主に行った. 具体的には,事業の見直しのうち,撤退の意思決定の要因を分析した既存研究を収集,整理することで,今後の研究課題を明確化し,さらに,それにどのような視座を持って取り組むべきかを理論的に検討した.理論的な検討では,まずコミットメント・エスカレーション研究を概観し,ほとんどの研究は実験研究であり,実社会のデータを用いた研究が少ないため,企業で撤退の意思決定が適切な時期になされないのはなぜか,とりわけ組織のどのような仕組みが撤退の決断を促進し,逆に阻害するのか,といった問題が残されていることを明らかにした.その上で,今後の研究においては,組織の仕組みとして,コーポレート・ガバナンス,その中でも特に,経営者交代と外部取締役の影響を検討するのが有望であると考えられることを明確にした.この成果は,『東京外国語大学論集』第100号に論文として掲載されている. また,以上のレビューを踏まえた実証分析の結果をWaseda Organizational and Financial Economics Seminarにおいて発表し,多様な分野の研究者から有意義なコメントを得た.本研究で検討しようとしている問題は,経営学(戦略論・組織論)のみならず,経済学やファイナンスの領域でも扱われてきた問題である.そのため,こうした分野の研究者から得たコメントをもとに,分析の改善を進められたことも今年度の成果である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通りである側面もあれば,当初の計画以上に進展している側面も,当初の計画よりも遅れている側面もあり,総合的には「おおむね順調に進展している」と判断している. 当初の計画通りである側面は,既存研究のレビューに関してである.「研究実績の概要」欄に記載の通り,検討結果を既にまとめ,論文として公表することが出来た.このレビューは,事業の見直しのうち撤退の意思決定に限った研究成果であり,既に以前から一部の検討は行ってきてはいたものの,本年度にさらに進めることで,本研究課題で検討すべき問題をより明確にすることが出来た. 当初の計画以上に進展しているのは,レビューを踏まえた実証分析の結果をセミナーで発表したことである.当初は1年目には既存研究のレビューを行った上で,データセットの構築までを行う予定であり,分析を行うことは考えていなかった.しかし,セミナーにお声がけを頂き,それが本研究の進展に極めて有意義なものであると思われたため,急遽,既に手元にあったデータの範囲内で分析を行った結果を発表することとした.この発表を行ったことにより,「研究実績の概要」欄に記載の通り,経営学だけでなく,経済学やファイナンスを専門とする研究者からもコメントが得られ,本研究課題を実証的に検討していく上での課題をより明確にすることが出来た.またこれ以外にも,別の実証分析を2つ行っており,どちらもまだ公表には至っていないものの,1つはワーキングペーパーで公表する準備が整いつつあり,もう1つは学会発表への応募を済ませている. 逆に,当初の計画よりも遅れているのは,本研究を行う上で必要な独自の変数の追加・収集作業である.これは2020年度中に終わらせる予定であったが,上記の通り,手元にあるデータの範囲内で分析を行うことを優先したため,完了していない.
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り,手元にあるデータの範囲内で分析を進めてはいるものの,本研究を行う上で必要な独自の変数の追加・収集作業に遅れが生じていることから,それを速やかに完了させることを優先する.これは,一般的なデータベースでは利用困難なデータを既に手収集の上,加工を行うという作業成果が時間に比例するものであるため,研究補助員の体制の見直しなども作業の進捗に合わせて適宜検討する. また,データ収集作業と同時に,理論的・実証的な分析についても,さらなる検討を進めていく.2020年度は,事業の見直しのうち,撤退の意思決定に注目して,理論的・実証的な検討を行うことが出来たが,2021年度は撤退だけでなく,参入の側面についても分析を進めていく.その際には,事業の見直しとして,撤退と参入を同じように検討するフレームワークが構築出来るのか,またそうしたフレームワークを構築出来るとしたら,そうしたフレームワークで実際に現象を経験的に説明出来るのか,という点を明らかにすべく研究を進めていく.
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Causes of Carryover |
多額の次年度使用額が発生した最大の理由は,人件費・謝金において,研究補助員が年度途中に急遽退職したためである.コロナ禍により代わりの雇用を行うことも難しかったため,人件費に充てる予定であった予算がそのまま未使用となった.研究補助員を雇用して,データの収集・整理作業を行ってもらう必要があることには変わりがなく,遅れている分,2021年度については雇用時間を増やす必要もあるため,この分については,2021年度の人件費・謝金への支出を増やすために用いる.
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Research Products
(2 results)