2020 Fiscal Year Research-status Report
インドのBOPビジネスを巡る協同組合と多国籍企業の競争に関する研究
Project/Area Number |
20K13573
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Research Institution | Nagoya University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
下門 直人 名古屋外国語大学, 現代国際学部, 助教 (00844094)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 協同組合 / 多国籍企業 / ソーシャル・ビジネス / 流通 / フードシステム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、インドが抱える貧困等の社会的課題に対して、協同組合間や協同組合と多国籍企業等の比較を通じて、それらの事業がいかにして社会的目的の達成と経営面における成果の両立を図っているのかを明らかにすることである 以上の研究目的に沿って研究を進めており、令和2年度における主な研究実績は二つある。一つは、2020年度にSpringer社から発刊された書籍に収められた英語論文“Inclusive Business and Sustainable Rural Development in India: A Case Study of the AMUL Community-Based Food Chain”が刊行されたことである。この論文では、インドの農村開発及び酪農開発の成功事例とされる酪農業協同組合AMUL(以下、AMUL)を対象とし、農村の貧困問題と深く結びついた零細生産者を前提とした農村事業と市場を通じた牛乳・乳製品の大量販売とを効率的に結びつけた事業モデルについて分析をおこなった。 二つ目は、インドの経済発展について経済学や経営学、農業経済、地理学を専門とする日本とインドの研究者らによって開催された国際カンファレンス(The 12th INDAS-South Asia International Conference)において報告したことである。この報告ではAMULの農村での事業に焦点を絞り、農民(組合員)との信頼関係をいかに構築しているのかということと、それが多国籍企業やローカル企業の事業といかなる点で異なるのかということについて考察している。 またこれら以外にも国内学会での報告や、一般向けの図書として2021年に白桃書房から刊行された『図解インド経済大全』において、インドの流通業界や牛乳・乳製品市場に関する原稿を執筆するなど、これまでの研究成果の公表を積極的におこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では令和2年度において現地の協同組合や民間企業等に対して調査を実施する予定であったが、世界的な新型コロナウィルスの感染拡大によって調査を実施することができなかった。そのため令和2年度においては、これまでの研究や過去の調査において収集してきたデータや情報を用いて研究を進めた。さらに、調査をしなかったことによって得られた研究時間を活用し、これまで本格的に取り組めてこなかった英語での論文執筆や国際カンファレンスでの報告など研究成果を英語で公表・発表することに力点を置きながら研究を進めてきた。具体的には、「研究実績の概要」で示した英語論文の公表と国際カンファレンスでの報告(報告タイトル:Sustainable Rural Development and Agribusiness in India: A Case Study of the Food Chain Management of AMUL)である。 また現在は、調査が不可能であったため新たな1次資料・データの収集はできなかったが、代わりに、インド政府が公開している家計所得調査や酪農開発庁から出版されている各種レポート等の2次資料・データの収集及び整理をおこなっている。その上で、それらを基礎としながら農民の階層や属性の分析の進め、協同組合の組合員(生産者)の所得水準や土地所有の有無など組合員の属性の分析を通じて協同組合間の比較分析を試みている。 以上のことから、令和2年度の研究の進捗状況は、新型コロナウィルスの感染拡大による調査中止よって当初計画の修正を余儀なくされているものの、現状では別のアプローチから研究を進められており、大きな遅れはなく概ね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画の段階では現地調査をすることを前提としていたが、インドにおいても新型コロナウィルスの感染拡大が収まらないため、令和3年度も調査の実施は困難であると考えている。そのため調査を実施せずに研究を進めることを前提に、以下に示すように若干の研究計画の修正をおこなう。また、調査を実施するために必要であった経費は民間の調査会社が販売する市場調査レポートや企業データの購入や分析、さらに前年度と同様に研究成果を英語で公表するために必要な英文校正などに代用する。 2年目である令和3年度における研究は、調査で得る1次及び2次データ・資料に基づいてAMULと他の酪農業協同組合、多国籍企業、民間企業の農村における事業についての比較分析をおこなう予定であった。しかしそれを若干修正し、農村における事業については焦点を協同組合間の比較に絞って分析を進める。具体的には、これまでの研究対象であり、酪農業協同組合の活動が活発であるグジャラート州のAMULと酪農業協同組合の活動があまり活発ではないビハール州の酪農業協同組合の連合組織であるCOMFEDを事例とし、両者の事業において貧困削減と密接に結びついた農村での活動の比較分析をおこなう。COMFEDは過去に調査を実施した酪農業協同組合であり、その時に得られた資料やデータを用いながら分析を進める予定である。グジャラート州とビハール州は協同組合の活動状況が対極的な地域であり、両者の比較は協同組合の事業や運動に対する興味深い知見が得られると期待される。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では令和2年度において、インドでの調査ならびに学会への参加のために旅費への支出が計画されていたが、新型コロナウィルス感染拡大によりそれらが中止となり旅費支出がなくなったために次年度使用額が生じた。 令和3年度についても新型コロナウィルスの収束が見通せず調査の実施は困難であると予想されるため、当初の使用計画では少額であった英語論文執筆の際の校正・翻訳費用や、本研究で対象としているインドの牛乳・乳製品産業以外の関連産業も含めた市場調査レポートの購入等に予算を使用する計画である。 ただし、もし今後ワクチンの普及によりインドでの調査が可能になった場合には、当初の計画通りにインドでの調査を実施したいと考えている。
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