2020 Fiscal Year Research-status Report
革新的技術の台頭が専門職組織と制度にもたらす変化に関する事例研究
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20K13585
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
後藤 将史 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (20868278)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | プロフェッション / プロフェッショナル / 専門職 / 人工知能 / 職業アイデンティティ / センスメイキング / 創業者属性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、Covid-19の深刻な影響を受け、予定したフィールドワークは中止せざるを得なかった。そのため、既存データで可能な研究論文の発信と、リモート対応可能な作業を重点に、優先順位を変更した。結果、研究項目3点のそれぞれで次の成果を挙げた。 ①制度変化(監査): 単著ディスカッションペーパー1本を公開した。同論文は、大手監査法人の事例研究により、人工知能実装に向けた試行の中で、公認会計士の世界観・未来観がどう変化したかを分析した。具体的には、技術による高い不確実性のため、従来の「計画立案-実行」型から「実行-修正」の永続的サイクルへと、意味認識・組織行動が移行したことを示した。他に、海外学会発表1本(審査有)が採択されたが、Covid-19関連で他の発表者都合により発表辞退となった。 ②職業アイデンティティ(監査): 海外査読付論文誌に単著論文1本が採択された。同論文は、テキスト解析と複数監査法人の事例研究により、公認会計士の集団的職業アイデンティティが、人工知能で業務を自動化しつつ高付加価値な新業務を技術と共に創造する存在へ、積極変化している現象を示した。これは、人工知能時代に専門職が生き残りをかけて目指す戦略的方向の一つ(自動化と能力拡張の共存)を示唆する。同分野の本格的な組織論の実証研究は、査読付論文誌では世界初である。採択後、公刊前から海外研究者の反応もあり、同研究は重要な先駆的研究となり得る。 ③ビジネスモデル(法務): 海外共同研究を継続し、初期的発見につき海外学会発表1本(リモート、審査有)を実施した。ここでは、国内リーガルテック企業12社に対するリモートインタビューによるデータ収集を行った。学会発表では、リーガルテック企業創業者の専門職属性(弁護士か否か)が、起業後の重要な戦略行動(サービス領域選択)に大きな影響を与え得るメカニズムを提起した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度ながら3月に論文採択を実現し、また海外学会発表は予定通りに進捗しており、成果面では非常に順調に推移している。但し、フィールドワークの中止により重要なデータ収集が中断しているため、本研究期間内でのさらなる論文発信については、一部遅滞が発生する可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、社会状況によりフィールドワークを再開できる可能性もあるが、引き続きその本格的実施が困難である可能性も高い。そのため、以下の方向で研究を推進する。 第一に、監査を題材とした研究は、引き続き既存データの活用で可能な論文発信に注力する。海外学会(リモート)での発表も実施し、関連研究者との対話を通じて論点をより精査しつつ、同種の関心ある研究者ネットワーキングを拡大する。合わせて、2020年度採択済論文のオープンアクセス化を行い、幅広い研究者に対する研究成果の浸透を促す。 第二に、法務を題材とした研究は、フィールドワークに依存しない形式でデータ収集を継続する。具体的には、リーガルテックスタートアップに対する質問紙調査と、選択的な追加リモートインタビューを行うことで、昨年度に提起した仮説の検証と肉付けを行う。合わせて海外学会(リモート)での発表も実施し、関連研究者との対話を通じた修正と論文化を目指す。
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Causes of Carryover |
大きくは、Covid-19の影響により、旅費発生を伴うフィールドワーク、および旅費発生を伴う海外学会発表が実現しなかったため、旅費の使用に予定との差が生じた。また、他の研究費で物品購入が可能となる例などが発生し、物品費なども節約することが可能となった。 2021年度は、社会状況の変化に合わせ旅費を伴うフィールドワークが可能となる場合には旅費を使用するが、困難な場合は既存データを活用した学会発表・論文発信を優先し、そのために必要な物品費(書籍等)、人件費・謝金とその他(論文の英文校正等)に主として研究費を使用する。また、研究成果の浸透による研究発展のため、2020年度採択済論文の有償でのオープンアクセス化を行う予定である。
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