2020 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Validity of Asset Valuation for Corporate Reorganization Act from Accounting Viewpoint
Project/Area Number |
20K13637
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
澤井 康毅 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 講師 (60784379)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 企業結合会計 / 財産評定 / 83条時価 / 最有効使用 / 剥奪価値 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の目的は、会社更生法に係る財産評定と、その原型となったSFAS141号の相違点及び相違の原因を明らかにすることであった。 SFAS141号は、企業結合により取得した事業資産につき、剥奪価値に近い評価を規定していた。すなわち、再調達原価を上限とした回収可能価額による評価であり、合理的な経営者の投資行動を忠実に表現したものと考えられる。これは結果的に、投資家の意思決定有用性に資する情報の提供という財務報告の目的を果たす。 他方、財産評定の目的は、会計的基礎を明らかにし利害関係者の権利範囲を明確化することである。事業資産、特に不動産の評価は最有効使用を前提としており、これは更生会社の現況利用に基づく使用価値と、合理的な第三者による用途に基づく正味売却価額のいずれか大きい価額と説明できる。効用が最大化される用途を前提とした評価、すなわち回収可能価額による評価は、債権者利益を毀損せず財産評定の目的にも反しない。ただし、使用価値が再調達原価を超過する場合、当該超過分たるのれんは資産に帰属せず、担保権者に保障する必要もないことから、再調達原価による評価が正当化される。従って、財産評定の事業資産評価は、SFAS141号に等しいものとなっている。もっとも、SFAS141号と異なり、財産評定における評価額の下限は清算価値であるため、回収可能価額による評価がなされるとは限らない。更生会社の再建可能性という視点からは、清算価値以上を保障する必然性はなく、財務会計には存在しない会社更生法特有の論理が見て取れる。 分析により、事業資産の評価に係るSFAS141号と財産評定の相違点及び原因は明らかとなった。ただし、より重要な成果は、会計基準と異なる目的を有する財産評定が、SFAS141号の評価手法を受容できた理由を説明したことにある。以上の知見は、『會計』に成果としてまとめた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、分析対象資産として事業資産と棚卸資産を挙げているが、2020年度の成果は事業資産に焦点を当てたものであった。棚卸資産の評価についての分析結果は、成果として発表できていない。米国基準(SFAS141号)と財産評定は、棚卸資産についても同様の評価を規定しており、製品・商品に関し、正味実現可能価額から正常利益を控除する点に特徴がある。企業結合では被取得企業の通常の販売努力を引き継ぐため、財産評定では事業の更生可能性を念頭に通常獲得できる利益を前提とした資産評定が求められるため、という説明は可能であるが、先行研究の域を出ていない。原材料、仕掛品も含め、棚卸資産に係る複数の類型につき、SFAS141号と財産評定の関係をより詳細に考察する必要がある。 他方、2021年度の課題には、財産評定の基礎となったSFAS141号と現在の米国企業結合会計基準を比較し、会計基準の改正が財産評定に影響を与えていない理由、その是非を考察することがある。これに関し、事業資産についての分析は先行しており、成果の一部を『會計』にまとめている。現行会計基準における事業資産の評価は、最有効使用を前提とした「公正価値」であり、これは財産評定の論理と矛盾しない。すなわち、会計基準の改正が財産評定の「時価」に与える影響は小さいこと、会計基準自体が実質的に変わっていない可能性を示した。 以上のように、棚卸資産については分析が不十分であるものの、2021年度の内容を一部先取りしていることから、「おおむね順調に進展している」と評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、まず、現在の米国企業結合基準が採用する「公正価値」の特性を調査する。分析を先行させている事業資産の「公正価値」に加え、棚卸資産の「公正価値」について国際会計基準(IFRS)や国際評価基準(IVS)等の規定を参照しながら、その特性を明らかにする。次に、「公正価値」と財産評定に係る「時価」を比較し、会計基準と財産評定に係る目的の違いが資産評価手法に与えている影響を解明する。改正前の米国基準(SFAS141号)に係る分析結果も踏まえ、財産評定に係る「時価」の特性を相対的に明瞭化したい。その上で、2022年度は、財産評定に係る「時価」が、債権者に対する公正・衡平な権利分配の実現、事業再建の成功という点において妥当なものかを評価する。特に、財産評定において認識されるのれんの評価、その帰属先について、会計学の視点から考察を加える。
|
Causes of Carryover |
コロナ渦において、参加を予定していた日本会計研究学会がオンライン開催、日本私法学会が中止となったため、参加費、出張費を支出しなかった。 以上の理由により生じた次年度使用額については、研究に関連する書籍の収集に使用する。
|