2020 Fiscal Year Research-status Report
静的個別対応リスク管理から動的統合リスク管理へのパラダイム転換と利益概念の変容
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20K13656
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
LI YAN 駒澤大学, 経済学部, 講師 (80803890)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 通貨オプション / コンバージェンス / IFRS / 非営利法人 / 金融課税 / リスクヘッジ |
Outline of Annual Research Achievements |
会計基準についての国際的なコンバージェンスが進展しつつある中でも、IFRSと日本基準との間に横たわる相違点の一つとしてヘッジ会計があり、通貨オプションを用いる予定取引を題材として、IFRSと日本基準との間に存在する会計処理の相違の原因とその根底にあるであろう思考の相違を明らかにしようとの問題意識から出発した。オプション取引を用いるヘッジ取引に関する独立処理、繰延振替処理と繰延ヘッジ処理による会計処理を示し、相違が純利益のみに表れることを示している。IFRSが包括利益を、日本基準が純利益をそれぞれ重視するという一般的な理解では説明がつかない点があることに着目し、時間的価値には信用リスク等も含まれることから、これの変動額はヘッジ対象の係る損益との明確な相関はなく、ヘッジ手段としての性質が薄いことを指摘したうえで、オプション料と本源的価値及び時間的価値に対するIFRSと日本基準の違いを述べ、そのことが純利益における相違の原因であることを示した。さらに、繰延振替処理における時間的価値に関する処理は、資産に計上されたオプション料の費用化であることを明らかにしたうえで、費用収益対応原則に基づくより合理的な費用化方法を複数検討した。 非営利組織については、営利を追求しないことが暗黙の前提とされる。ポートフォリオ理論は非営利組織にも同様に当てはまるのであるが、ここで非営利組織の在り方に立ち返る必要がある。非営利組織は営利を目的ではないとされるが、投資については、リターンを「最大化」することが主たる目的ではないというべきであろう。すなわち、リスクとリターンの関係において、リターンの最大化よりもリスクの最小化を目指すべきということである。したがって、非営利組織におけるポートフォリオは、効率的フロンティア上のすべての点ということにはならず、最小分散点かそれに近い部分に絞られるべきとの結論に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画に基づき、2020年度に金融商品会計基準とIFRS第9号における課題と理論根拠と史的展開を明らかにするための文献研究、先行研究を行い、IASBが検討中のPRAの詳細を検討した。また、非営利組織は、保有資金について自由なポートフォリオによって運用することが可能となる環境が整ったが、それと同時に非営利組織は明確な指標のない中で、勘と経験に頼った投資活動を行っているのが実状であるため、PRAの非営利組織の問題への応用を考察した。ただし、コロナ禍の影響により、証券市場が異例な状態に置かれているため、ヘッジ取引実施企業とそれ以外の企業の財務諸表データを比較分析する研究が困難となった。さらに、新型コロナウィルス蔓延により、国内の研究会及び学会の開催に支障を来し、海外との往来が事実上不可能であることもこれに追い打ちをかけている状況にある。そのため、研究計画に遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
ヘッジ会計を取り巻く理論及び基準の混乱は、経済学における事前の期待利益と会計学における事後の実現利益との混在に起因するだけでなく、事前の期待利益は過去のデータに拠るところが大きいという事実がある。包括利益と純利益との間に横たわるリサイクルを有無という違いをIFRSと日本基準との間で生み出し、純利益の変質をもたらしているため、主観利益という観点から、IFRS 第9号において、資本性金融商品の評価差額についてOCI処理を選択した場合にはその後のリサイクリングを認めない理論的根拠を検討する。 現代会計学と現代経済学を組み合わせ、リスクをヘッジする方法は、互いに損益を打ち消し合う取引を組むだけではなく、すなわち必ずしもリスクを0にするべきものではなく、分散取引を組むことも有力なものとなること、そして、それぞれのヘッジの実態に合わせたヘッジ会計処理が必要となることを示す。PRAの場合には、分散投資によりリスクを軽減しつつ、その中で利益を最大化することが目標となる。これらを公正価値評価し、さらに定期的に再評価を行うことは、この経営者の判断とその途中経過のみならず意思決定の修正を開示することになるため、有用性が高い。この点を明らかにするため、ヘッジ取引実施企業とそれ以外の企業の財務諸表データを比較分析する。 これらの研究成果を踏まえたうえでヘッジに関する事前予測利益と事後実現利益とに区分する理論を研究する。 ただし、現状3度目の緊急事態宣言が発令されており、さらなる遅れが見込まれることから、研究会は可能な限りリモートで行うとともに、研究成果の発表を専門誌等を通じて行うことを進め、主に文献研究、理論研究を中心に研究を進めることとする。また、海外の動向については、できるだけ文献・資料収集及びリモートでのヒアリング調査を行うことにより研究の遅れを極力少なくする方針である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響により、令和2年度の国内出張及び海外出張は全て中止となったため、当年度に実行予定であったものを翌年度に延期したことによる。 令和3年度には、遅れを取り戻す計画ではあるものの、4月に入ってから3度目の研究事態宣言が発令される事態となり、先行きが不透明な点があることから、必要に応じ再度の計画修正が必要となることも考えられる。
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