2022 Fiscal Year Research-status Report
静的個別対応リスク管理から動的統合リスク管理へのパラダイム転換と利益概念の変容
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20K13656
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
LI YAN 駒澤大学, 経済学部, 准教授 (80803890)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 金融デジタライゼーション / 金融商品会計 / デリバティブ会計 / オプション価値 / 暗号資産 |
Outline of Annual Research Achievements |
決算手段として機能する暗号資産のヘッジ性は、暗号資産の持つ通貨としての性質にとどまらず、金商商品あるいは金融派生商品としての性質をも併せ持つ。このことは、様々な利用法が想定される暗号資産を既存の資産区分に当てはめることの困難さをもたらしている。 また、通貨や金融商品は流動性を高める手段としての機能を持つが、これらのデジタル化はそれをより容易にするものとなっているとともに、それ自体が独立した価値変動をすることもある。このことは、デジタル通貨およびデジタル金融商品それ自体が投機の対象となることはもちろんのこと、ヘッジ取引の対象となり、ヘッジ対象にもヘッジ手段にもなりうることを意味する。暗号資産の価値変動リスクをヘッジするためには、理論上、その暗号資産について同量の先物取引を組むことにより可能となる。ここで留意すべきは、先物取引と暗号資産決済との間に直接的な負の相関関係があるのではなく、したがって、ヘッジ対象とヘッジ手段という一対の関係を見出せないということである。 なお、金融商品の資産評価に関連し、デリバティブの中でも特にオプションに焦点を当てて検討を進める。オプションの価値は、原資産の価格との関係に基づいて算定されるのであるが、この理論の実物資産への応用を行う。オプションの価格は原資産の価格に依存するということに止まらず、この関係は実物資産をオプションと捉えることにより、実物資産の評価にも適用可能である。 経済のデジタル化は、リスク込みの将来キャッシュ・フローに基づく資産評価の技法が向上していることによる利用は可能である。評価方法の進展と普及が進む中、将来の予想というリスクテイキングの姿勢を会計情報に反映させることが、純利益等の情報提供に支障を生じさせないのであれば、企業と会計情報利用者との間に横たわる情報の非対称性を軽減する有用な情報となりうる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画に基づき、包括利益と純利益との間に横たわるリサイクルを有無という違いをIFRSと日本基準との間で生み出し、純利益の変質をもたら しているため、解決への道筋を得た。 また、ヘッジ会計を取り巻く理論及び基準の混乱は、経済学における事前の期待利益と会計学における事後の実現利益との混在に起因するだけでなく、事前の期待利益は過去のデー タに拠るところが大きいという事実が混乱の原因であることが明らかにした。 さらに、通貨や金融商品は流動性を高める手段としての機能を持つが、これらのデジタル化はそれをより容易にするものとなっているとともに、それ自体が独立した価値変動をすることもある。このことは、デジタル通貨およびデジタル金融商品それ自体が投機の対象となることはもちろんのこと、ヘッジ取引の対象となり、ヘッジ対象にもヘッジ手段にもなりうることを明らかにした。 リスク込みの将来キャッシュ・フローに基づく資産評価の技法により、資産評価を収入額ベースによって統合した結果としての予測利益を別途得ることを可能にするという結果を得た。そのとき、予測利益と純利益の関係は、制度化されている包括利益と純利益との関係とは比較にならない程に複雑化する。 ただし、コロナ禍の影響により、海外との往来が事実上不可能であった。そのため、研究計画に遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
暗号資産の技術的基盤であるブロックチェーンはさらなる発展の可能性が模索されており、その一つがDeFiである。DeFiとは、主としてイーサリアムブロックチェーン上に構築された金融アプリケーションのことで、分散型金融と呼ばれるものである。DeFiが暗号資産にもたらす影響を検討し続ける。 オプションの価値は、原資産の価格との関係に基づいて算定されるのであるが、この理論の実物資産への応用の可能性を検討する。例えば、プラントの評価は、取得原価によるものとされ、使用に伴い減価償却による配分が行われることとされている。しかし、資産評価という観点からは、リスクを考慮した収入額ベースの評価を行うことは技術的に可能であり、現実にそのような評価に基づいた経営判断が行われる。なお、このような資産評価方法を制度化する場合、資産を取得すると同時に評価差額が計上されることになり、オプション価格は、必ずしも市場における客観的価値ではなく、経営者の主観が介入する可能性もある。そして、これを利益に含めるかどうかはまた別の議論が必要である。 また、海外の動向については、コロナ感染の状況を見極めつつ、可能な限り、当初予定している海外の金融市場の研究している学者や実務家にヒアリング調査を行う予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により、海外との往来が事実上不可能であったため、研究計画に遅れが生じているため、次年度においては、研究計画において未着手となっている、本研究課題に関連する分野の海外の研究者および実務家にヒアリング調査を行う。 暗号資産の技術的基盤であるブロックチェーンはさらなる発展の可能性が模索されており、DeFi(主としてイーサリアムブロックチェーン上に構築された金融アプリケーションのことで、分散型金融と呼ばれるもの)について、リモートではやりとりが難しい情報に触れたいと考えている。 オプションの価値は、原資産の価格との関係に基づいて算定されるのであるが、この理論の実物資産への応用の可能性を検討するという点について、プラントの評価は、取得原価によるものとされ、使用に伴い減価償却による配分が行われることとされているが、現実にどのような経営判断が行われるのか、そして、その判断材料として本研究課題に関連する理論や学術的知見がどこまで利用されているのか(あるいは経験に頼る部分が大きいのか)を探る予定である。 本研究で取り扱う資産評価方法を制度化する場合、資産を取得すると同時に評価差額が計上されることになり、オプション価格は、必ずしも市場における客観的価値ではなく、経営者の主観が介入する可能性もある。そして、これを利益に含めるかどうかはまた別の議論が必要となるため、この点についての調査も行う。
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