2021 Fiscal Year Research-status Report
伝統的生業の保全と観光活用の持続可能なモデル構築に向けた社会学的研究
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20K13697
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
吉村 真衣 三重大学, 人文学部, 助教 (40837316)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 海女 / 生業 / 地域社会 / 観光 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は先行研究の精読、文献調査、鳥羽市および志摩市でのフィールドワークを実施した。鳥羽市では、前年度に調査した相差町および石鏡町の追加調査をした。志摩市では、予備調査として海女小屋体験や海女漁見学にかかわる調査を実施した。また前年度調査において、観光活動だけでなくそれを支える地域社会の経時的・構造的理解や、当事者の生活実践の領域に踏み込んだ理解の重要性に気づき、新型コロナウイルスの影響で研究のための移動が制限されたこともあり、鳥羽志摩地域においてこの点に重点を置いた調査を継続した。 鳥羽志摩地域では、古くから観光の場に海女が登場してきた。先行研究でも指摘されてきたようにそれは生業とは切り離された場・イメージで消費される傾向があったが、文化遺産化をはじめとする海女の文化的価値の変容により、現在では生業と連関した観光のありかたが成立していることがわかった。また、海女の文化的価値の変容は、地域社会の歴史的経緯や社会経済構造によっては必ずしも観光につながらない場合がある。鳥羽市石鏡町では、海女の文化的価値の変容が観光ではなく、移住者による海女の継業につながったことがわかった。今後は伝統的生業と観光をむすぶ経路が開かれる事例と、石鏡町のように他の経路が開かれる事例との差異に注目しながら研究を進める予定である。2021年度の調査結果をもとに学会報告や論文投稿を行い、次年度以降の調査研究についてコメントを得る見通しである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、新型コロナウイルスの影響のため、前年度に引き続き鳥羽志摩地域を中心に調査を実施した。三重県外や韓国でのフィールドワークが実施できず、その点は進捗が遅れている。感染拡大状況に応じて調査対象や手法を随時変更する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降、鳥羽志摩地域および三重県外、韓国済州島の各地域で本調査を進める。鳥羽志摩地域では、初年度から実施している調査を継続する。また済州島での「海女文化」の観光化プロセスやユネスコ無形文化遺産化プロセスについて、文献調査や現地の研究者、行政関係者、地域住民等への聞き取り調査を行う。とくに「海女文化」創出をめぐるアクター間の力学や、ローカルな社会構造との相互作用に焦点をあて明らかにする。 鳥羽志摩や済州島は文化遺産化と観光化が密接に関わっているが、そうでない事例として昭和期の銀幕での「海女」ブームをうけ観光化された千葉県御宿と、平成期にテレビドラマの影響で海女のショー観光がさかんになった岩手県久慈でも調査を実施する。文献調査や行政関係者、漁協関係者、海女などの地域住民への聞き取り調査を通して、各事例における「海女」の観光化プロセスと地域社会への影響を明らかにし、鳥羽志摩および済州島の事例と比較することで理論的深化を図る。いずれの地域でも、新型コロナウイルスの影響によっては文献調査やオンラインでの聞き取りを優先させるなど調査方法を適宜変更する予定である。 ここまでは従前の推進方策と同様であるが、新型コロナウイルスの感染拡大により複数地域での調査が困難な場合、これまで調査をしてきた鳥羽志摩地域の事例を経時的・構造的に深めて分析することで、「伝統的生業の保全と観光活用の持続可能なモデル構築」という本研究の問題関心につなげていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、出張をともなう調査を実施できなかった。 次年度以降、資料調査、現地調査や成果発表に使用する予定である。
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