2020 Fiscal Year Research-status Report
ラテンアメリカ日系留学生の太平洋戦争経験-日本と連合国の間で
Project/Area Number |
20K13701
|
Research Institution | JICA Ogata Sadako Research Institute for Peace and Development |
Principal Investigator |
長村 裕佳子 独立行政法人国際協力機構(緒方貞子平和開発研究所), 研究所, 研究員 (70868009)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ラテンアメリカ日系留学生 / 太平洋戦争 / 戦争経験 / 記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、太平洋戦争中に滞日し、日本と連合国との間で政治的立場を問われたラテンアメリカ日系留学生の戦中の経験、戦後の母国へ帰国後の経験を分析する。その上で、南北アメリカの日系人の戦争経験の語り・記述の多様性、記憶・継承の構造を再検討する。 一年目の調査では、南北アメリカの日系人の様々な第二次世界大戦経験を地域や置かれた立場ごとに検討、整理した。多様な経験の中でも、戦中の日本への戦争協力や、戦後の連合国軍への協力を行ったラテンアメリカ日系留学生の個人の経験は日本、ラテンアメリカ双方の「公的」な歴史に位置づけられてこなかったほか、日系人コミュニティの集合的な記憶からも切り離されてきた傾向にある。それは南北アメリカ各地で体験した「敵性外国人」としての強制収容や強制連行、強制立ち退きの①被抑圧のストーリーでもなく、北米で連合国だった母国へ忠誠心を示す機会を得た従軍による②英雄のストーリーとも異なる。つまり、ラテンアメリカ日系留学生の経験は戦後、①、②のような日系人の戦争経験を再考し、共有しようとするホスト社会、日系人コミュニティの社会的な動きの中でも、取り残されてきた日系人の戦争経験であった点に注目できる。 このように、南北アメリカの日系人の戦争経験に関する語りや記述の特徴、ホスト社会、日系人コミュニティにおける記憶、継承のされ方やその程度を概観することで、ラテンアメリカ日系留学生の経験の位置づけの難しさを確認した。今後は、太平洋戦争中に滞日していたブラジル、アルゼンチン、ペルーからの日系留学生の体験、戦後の人生を再構成しながら、かれらの戦争経験の語りが戦後、他の日系人の戦争経験から切り離されていった文脈を考察していく。また、本研究の実施がラテンアメリカの日系人コミュニティの戦争経験の記憶・継承の問題にいかなる働きかけを行えるか、アクション・リサーチの可能性も検討する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一年目の2020年度の調査は、コロナ禍の移動制限により国内外での調査が困難になり、入手できる資料・データ等が大きく限られたため、研究活動も制限を余儀なくされた。それでも先行研究をもとにした文献調査へ時間を割き、南北アメリカの日系人の戦争経験の語り・記述を整理し、戦後のホスト社会と日系人コミュニティにおける戦争経験の記憶、継承のされ方について重点的に分析を進めることができた。また、二年目以降に国内外での資料収集ができる場合に備えて、今後、重点的に検討できる資料の形態や、それらの資料の所在に関する事前調査に時間をかけた。以上の点から、少なからず、2020年度は翌年以降の研究実施の土台となるマクロな分析、現地調査に向けた情報収集を進めることができたと考える。 さらに、オンライン開催での国際学会で研究報告を行い、海外の研究者とも議論する機会を得られた。ブラジルの学会で報告した際は、ブラジルの日系研究者らと本研究が論じるテーマの社会的な重要性について問題意識を共有することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、南北アメリカの日系人の第二次世界大戦争経験について引き続き先行研究を検討、整理するほか、ラテンアメリカ日系留学生の戦争経験、戦後の人生を分析することのできる一次資料を収集し、具体的にかれらのライフストーリーを再構築していく。沖縄県公文書館の移民関連文書などから太平洋戦争時、沖縄県に多かったアルゼンチン、ペルー日系留学生に関する戦中の状況や戦後の母国への帰国プロセスについて情報を収集した後、アルゼンチン、ペルー側の資料館でのかれらのその後の人生について調査する。ブラジルの日系留学生については、サンパウロ人文科学研究所などにいくつかの個人資料が所蔵されていることが分かったため、個人資料をもとにそれらの人物のライフストーリーの再構築を試みる。 上記のようにラテンアメリカ日系留学生のライフストーリーを再構築した後、再度、かれらの戦争経験の意味付けと、かれらを取り巻く戦後のホスト社会、日系人コミュニティの日系人の戦争経験の捉え方との齟齬を分析する。最後に、南北アメリカの日系人の戦争記憶の全体像の中にラテンアメリカ日系留学生の戦争経験を位置づけることを試みる。 2021年度は国内外の学会で中間成果を報告し、2022年度に論文投稿を予定している。また、同時に、本研究テーマはラテンアメリカの日系人コミュニティの歴史記憶の継承、保存に向けて重要な示唆を与えられるだろうことを踏まえ、現地の日系研究者や日系資料館との連携を検討していく。
|
Causes of Carryover |
2020年度は、コロナ禍の移動制限により国内外での資料収集が困難になり先行研究レビューを中心とした文献調査から研究を進めたのと、国内外の学会の開催がオンライン開催へと切り替わり出張する必要がなくなったため、旅費の支出が行われなかった。2020年度は、次年度以降に国内外での資料収集ができる場合に備えて、今後、重点的に検討できる資料の形態や、それらの資料の所在に関する事前調査を進めた。 次年度では、移動制限の緩和を鑑みながら、一年目に使用されなかった旅費を活用して積極的に国内外での歴史資料の収集を進める。まず沖縄県公文書館などの日本国内の資料館での資料収集を開始し、そこで得られた情報、分析をもとにブラジル、アルゼンチン、ペルーの資料館での資料収集の実施を検討する。海外では、ブラジルのサンパウロ人文科学研究所が所蔵する移民の個人資料の収集から始める予定である。海外調査に合わせて、残りの物品費を利用し、現地でしか入手できない外国語書籍の購入を行う。
|