2021 Fiscal Year Research-status Report
ラテンアメリカ日系留学生の太平洋戦争経験-日本と連合国の間で
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20K13701
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Research Institution | JICA Ogata Sadako Research Institute for Peace and Development |
Principal Investigator |
長村 裕佳子 独立行政法人国際協力機構(緒方貞子平和開発研究所), 緒方貞子平和開発研究所, 研究員 (70868009)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ラテンアメリカ日系留学生 / 太平洋戦争 / 戦争経験 / 留学体験 / 越境教育 / 記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、太平洋戦争中に滞日し、日本と連合国との間で政治的立場を問われたラテンアメリカ日系留学生の戦中の経験、戦後の母国へ帰国後の経験を分析する。その上で、南北アメリカの日系人の戦争経験の語り・記述の多様性、記憶・継承の構造を再検討する。 二年目の調査では、先行研究をもとに太平洋戦争前の1930年代の来日留学生全般の状況について整理し、その中にラテンアメリカからの日系留学生を位置づけた。1930年代の日本への留学生には大きく分けて北米の日系二世による留学と、東アジア出身者による留学とがあった。前者は日系子弟に文化的橋渡しを期待した「祖国」での文化継承の側面がみられた一方、後者は東アジアで勢力を拡大していた「大国」日本での勉学という側面がみられた。また、先行研究ではライフヒストリーをもとに北米の日系二世の留学と、東アジア出身者の留学とでは戦中戦後の出身国と日本との関係性の変遷の中で、留学体験に異なる意味が付与されていったことが明らかにされてきたことを整理した。 一方で、移民研究分野では戦前日本への北米日系人や東アジア出身者の留学について多くの研究蓄積があるものの、ラテンアメリカからの日系留学生についてはほとんど取り上げられてこなかったことを再確認した。ラテンアメリカからの日系留学生の経験を分析することで、1930年代の日系人の越境教育と、日本と日本帝国勢力圏、南北アメリカの日本人移民先との間の学生の移動の仕組みをより包括的に明らかにすることができる。 また、本年度は、戦前のブラジル邦字新聞の分析から、1930年代後半にブラジル国内で外国語教育が禁止されたことを契機に日本語教育目的での日本留学が増加したことを確認した。今後、ラテンアメリカ日系人の留学の文脈、かれらのライフヒストリーを明らかにしていくと同時に、他国からの留学生の来日背景、戦前戦後のライフヒストリーとの比較を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度の二年目の調査もコロナ禍の移動制限により国外での調査が困難になり、入手可能な資料・データ等が限られたため、研究活動も制限を余儀なくされた。また、国内外の各資料保存機関の一時的な閉鎖や閲覧時間の短縮、一日の利用人数制限などにより資料収集にも時間を要している。 そのため、2021年度は先行研究から1930年代の来日留学生全般の状況を整理しつつ、オンラインでアクセス可能な戦前のラテンアメリカ邦字新聞や外交史料をもとにラテンアメリカからの日系留学生を取り巻いた環境について分析を進めた。また、今後収集を予定するブラジル日系留学生のライフヒストリーに関する一次史料の所在について事前調査を進めた。2022年度はブラジルなどで資料収集を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ラテンアメリカ日系留学生の留学体験、戦争経験、戦後帰国後の人生を分析するための一次史料を収集し、具体的にかれらのライフヒストリーを再構築し、分析していく。また、ラテンアメリカ日系人の留学の文脈と戦前戦後を通じたライフヒストリーと、他国からの留学生の来日背景、ライフヒストリーとの比較検討を行う。 ブラジルの日系留学生について、サンパウロ人文科学研究所などにいくつかの個人資料が所蔵されていることが分かったため、個人資料の分析をもとにそれらの人物の経験の再構築を試みる。ブラジル邦字新聞の分析を進め、かれらを取り巻いた当時のブラジル日系社会の教育思想や、日本から帰国後の戦後日系社会の状況についてまとめながら、日系留学生のライフヒストリーを執筆する。2022年度に学術誌への論文投稿を予定する。 一方、2021年度に行ったラテンアメリカ邦字新聞の分析からは、ブラジル以外の国については日系留学生を送り出していた日系家庭側の傾向についてほとんど情報を収集できなかったため、沖縄県に多かったアルゼンチン、ペルー日系留学生に関して、親族とのつながりや戦中の状況、戦後の母国への帰国プロセスについて沖縄県の公文書館等で重点的に資料収集を進める予定でいる。 上述の作業は、2021年度に行った先行研究の整理をもとに北米の日系二世や東アジア出身者の留学の文脈、ライフヒストリーとの比較の視点で行い、最終的には日本と日本帝国勢力圏、南北アメリカの日本人移民先との間の学生の移動の仕組み、異なる出自・背景を持つ留学生間の経験の差異とその意味を検討していくことを目指す。
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Causes of Carryover |
2021年度も、コロナ禍の移動制限により国外での資料収集が困難になり先行研究レビューやオンラインアクセス可能な資料を中心とした文献調査から研究を進めたのと、国内外の学会がオンライン開催となり出張する必要がなくなったため、旅費の支出が行われなかった。 次年度から国内外での資料収集を予定し、今後、重点的に収集・分析できる資料の形態やそれら資料の所在に関する事前調査を進めた。次年度では、移動制限の緩和を鑑みながら、一年目、二年目に使用されなかった旅費を活用して積極的に国内外での一次史料の収集を進める。ブラジルの資料館や、特にアルゼンチン、ペルーからの日系留学生が多く滞在していたと想定される沖縄県の資料館等で資料収集を実施する。また、海外調査に合わせて、現地でしか入手できない書籍の購入などを予定する。
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