2023 Fiscal Year Research-status Report
労働能力のある公的扶助受給者への就労支援のあり方に関する日韓比較研究
Project/Area Number |
20K13770
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Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
松江 暁子 国際医療福祉大学, 医療福祉学部, 講師 (00734831)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 韓国 / 公的扶助 / 就労支援 / 国民就業支援制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,単著の執筆に取り組み,『韓国の公的扶助――「国民基礎生活保障」の条件付き給付と就労支援』(明石書店,2023年)を出版したことが最も大きな実績である。 本書は,本基金を受けるに至った博士論文に加筆修正を行ったものである。本書出版後,2023年8月には,世界社会保障研究会において合評会を行い,いくつかの有益なコメントを受けることができた。そこでは,今後の研究課題として国民基礎生活保障の導入や大きな改革への韓国国内の経済的・政治的状況の影響,また,体系的な就労支援としての「自活事業」の実施基盤となったといえる,それ以前より展開されていた自活共同体などとの連続性という視点などの示唆を得ることができた。 また,2024年3月には,大阪商業大学比較地域研究所「東アジア21世紀型の生活・社会課題と地域イニシアティブ――日本・韓国・中国を中心に――」の研究会(2023年度第4回)の招聘を受け,現在の就労支援の担い手となる社会的企業や自活事業に関する多くの知見を得た。 そして,阿部誠編著『就労支援政策にみる福祉国家の変容――7か国の分析による国際的動向の把握』の「第6章 現金給付と就労支援による貧困・就労困難層への対応――韓国の就労支援システム」の執筆を行った(2024年5月刊行予定)。これにより,韓国型失業扶助と呼ばれる国民就業支援制度や公的扶助である国民基礎生活保障のもとで展開される就労支援は,法のもとにシステムが構築され展開されていること,現金給付がセットとなっていることが特徴であるとした。 以上の他に,「韓国にける周産期医療と生殖補助医療の公的保障のあり方」『健保連海外医療保障』(No.133,2024年)を執筆し,低所得・貧困層の人々にもこれらに関する経済的支援が行われていることを含めて論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本助成を受けた期間(2020年度から2022年度)が,まさに新型コロナウィルス感染拡大により海外渡航および国内移動に制限があり,それが研究の進捗が遅れてた最大の理由である。 上記のような状況にはあったものの,2023年度に単著を出版したこと,今後の出版につながる原稿執筆や研究会への参加ができたことから,研究の進捗状況としてはやや遅れていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
先進福祉国家と呼ばれる国々においても貧困・低所得にある人々への給付とともに就労支援が行われており,それらと韓国の就労支援に関連する法制度のあり方や就労支援の実際について比較分析を今後進めていきたいと考えている。しかし,昨年度にヨーロッパへ訪問調査することも検討したが時間的制約が大きく,実施を断念した。ただし,分担研究者となっている基盤C(「経済発展のタイミングと福祉国家の多様性」21K01871)において福祉国家の成立のタイミングが遅かった韓国,台湾への調査を行い,生活に密着した調査がより深い制度政策の分析に有用であることが明らかになった。 そのことから,本研究課題においては引き続き,韓国の就労支援とかかわって,国民基礎生活保障制度に加え国民就業支援制度の就労支援制度との関係性と実際について分析を進める。国民就業支援制度は,本補助金を受けたのちの2021年に導入された韓国型失業扶助と呼ばれる制度である。すでに60万人程度の参加者実績がある。同制度の就労支援プログラムは,同制度の参加者とともに国民基礎生活保障の条件付き受給者のなかでも労働能力が一定程度高い人々も自活事業の一環として利用することとなっている。国民就業支援制度の就労支援にいかにして国民基礎生活保障の受給者が参加する流れとなってるのか,具体的にはどのような状況にある基礎保障を受給する人々が参加しているのか調査を行う。 加えて,韓国の福祉政治の分析を行った韓国文献について共同で翻訳を進めている。本書については2024年度内に出版を予定しており,研究者間での研究会で合評会を行うなどを検討している。
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Causes of Carryover |
本基金を受けた2020年度から2022年度は新型コロナウィルス感染拡大により,韓国および国内における調査が困難であった。そのため予算の主となる旅費に関する予算を基金を受ける3年間のうち2年半程度の間,執行することが困難であったことが影響し研究に遅れが生じたことから,次年度への使用額が生じた。 2024年度は,韓国および韓国での就労困難層への実践および政策対応に関する調査(300,000円),国内での研究会・学会活動(200,000円),出版後の研究会などの資料代(300,000円),その他消耗品や書籍の購入など(144,000円)の使用を行っていく予定である。
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