2021 Fiscal Year Research-status Report
Study of Generalized Conditions in Protein Direct Determination on Fiber Substrates
Project/Area Number |
20K13808
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
塚崎 舞 実践女子大学, 生活科学部, 助教 (50844924)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | タンパク質 / 直接 / 定量 / 反射率 / 色 / 繊維基質 / 汚れ / 洗浄 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、繊維基質上に付着したタンパク質を、抽出処理を必要とせず、実験者による測定値のバラつきを抑える簡便な処理で、直接定量する方法を検討している。アルカリ環境下でビシンコニン酸および銅イオンを用いた呈色還元反応であるBCA法を利用し、タンパク質量に応じた呈色(赤紫色)を反射率測定により評価する。本研究の発展は、簡便で安全、正確なタンパク質定量法の開発と、皮脂汚れを評価する新たな指標とした洗浄・衛生分野の研究発展に貢献し得るものである。2021年度はより洗濯環境を意識した実用的な側面を検討するため、タンパク質の種類による反応性への影響、およびタンパク質と界面活性剤、酵素、脂肪酸の共存状態での定量性への影響を調べた。 タンパク質モデルとして従来用いてきたアルブミンに対し、カゼイン、ゼラチン、ケラチンの反応性を調べたところ、カゼインとケラチンは、アルブミンと同様の定量性を示し、ゼラチンは他タンパク質と比較し、定量濃度と反射率の低下の関係性がやや緩やかであることが明らかとなった。これは、本研究で利用するBCA法と全く同じ特徴を示し、布帛上でBCA法が成立していることを示すと考えられる。さらに、水不溶性のタンパク質であるケラチンは、溶液系のBCA法では定量が困難であるが、本研究においては他の水溶性タンパク質と同様、簡便な測定が可能であることが明らかとなった。 また、界面活性剤、酵素との共存条件では、実用的な観点から洗濯洗剤成分が洗濯物に残留することを想定した濃度を設定し、アルブミンと共存させて反射率を測定したところ、洗剤成分のすすぎ残留程度の濃度であれば、本定量法に影響はないと判断することができ、実際の洗濯物への応用が期待される結果となった。脂肪酸について、分子中に二重結合をもつオレイン酸がタンパク質と同様に発色することが判明し、引き続き検討を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
タンパク質種の影響について、2020年度の時点で予備実験を済ませており、例えば、カゼイン(乳由来)の水溶液試薬を調製する際のpH調製といった、特徴のあるタンパク質試薬の調製に手間取ることなく、スムーズに進行できた。さらに、界面活性剤として、市販洗濯洗剤に用いられる代表的な4種の合成界面活性剤、6種の脂肪酸ナトリウムの計10種を選定し、酵素としてタンパク質分解能をもち洗濯用に用いられているプロテアーゼ製品を実験に供した。酵素自体がタンパク質であるため、アルブミンと共存させるプロテアーゼ製品の濃度を高くしていった場合、アルブミンのみの反射率と比較してより低くなり、酵素がタンパク質としてBCA錯体形成反応を促進することが明らかとなった。しかし、実際の洗濯環境では、呈色に影響を与えるほどの高濃度の酵素が洗濯物に残留することは考えにくく、洗剤の残留を想定する濃度では影響はないと判断できる。 また、脂肪酸の共存による定量性の影響について、非常に興味深い結果が得られた。ヒトの皮脂成分の約6割を占めるとされる油性成分である、オレイン酸、パルミチン酸、人工セバム汚れを用いて汚染布を作成し、アルブミンと共存させて反射率を測定したところ、オレイン酸と人工セバム汚れについては、基準となるアルブミンのみの反射率よりも値の低下が確認された。これら2種の脂肪酸は、分子構造中に二重結合をもつことから、同じく二重構造をもつBCAと何らかの相互作用が働いていることが推測された。オレイン酸は皮脂中の主要な成分のひとつであり、本定量法にどのような具体的な影響を及ぼすかについて詳細な検討が必要であると考える。これらの結果からこれまでタンパク質と同様、溶液系での定量が困難であった脂肪酸についても、本定量法による何らかのアプローチが可能となるのではないかと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の実用性について詳細な検討が進み、実際の皮脂汚れ(天然汚染布)を使用した実験の最終段階に進めていく。その前段階として、先述の通り油性皮脂成分であるオレイン酸の影響を詳細に検討したい。具体的な方法として、複数の所定濃度としたオレイン酸汚染布を作成し、オレイン酸自体の呈色反応とその反射率を測定することで、タンパク質(アルブミン)の反射率値と比較したい。これについて、すでに実験を進めており、有機溶剤(ヘキサン)を用いてオレイン酸を希釈し、1.0~0.01%までの濃度グラジエントをとり、汚染布を作成して反射率を測定した。今後、さらに実験を進めていく。 また、洗濯環境の再現として、オレイン酸汚染布を用いて洗浄試験を行い、より実際の洗濯物に近似した試料布を作成した上で、タンパク質との共存状態への影響を検討したい。これらの検討を進め、実際の皮脂汚れに含まれるタンパク質、およびオレイン酸等の油性汚れとの複合要素と、本定量法への影響を明らかにすることで、汎用条件の確立を目指したいと考える。
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Causes of Carryover |
2021年8月に投稿し受理された学会論文の掲載料について、年度内掲載の予定が急遽ずれ込み、2022年4月掲載となった。よって、その掲載料に充てるため次年度使用が必要となった。
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