2020 Fiscal Year Research-status Report
みそ・しょうゆ特有香気成分の酵母による生成機構の解明および増強化技術への応用
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20K13832
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Research Institution | 秋田県総合食品研究センター |
Principal Investigator |
上原 健二 秋田県総合食品研究センター, 食品加工研究所, 主任研究員 (30781893)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 酵母 / 機能性フラノンHEMF / 生成経路 / みそ・しょうゆ |
Outline of Annual Research Achievements |
味噌・醤油に代表される日本の発酵食品には様々な機能性を有するフラノン化合物HEMFが含まれている。HEMFは主に耐塩性酵母が生成するが、その生成経路の詳細は不明であり、効率的な育種法も未だ確立されていない。本研究では、HEMF高生産酵母の効率的育種を最終目標に、酵母におけるHEMF生成経路の完全解明を目指している。 R2年度は本研究初年度のため、予備的な研究としてSaccharomyces cerevisiaeを用いたHEMF生成条件の最適化を行った。その結果、HEMF生産性が約2倍となる生成条件を明らかにした。さらに、HEMF前駆体であるメイラード反応物存在下で発現が変動する遺伝子群をRNA-seq解析により抽出した。具体的には、糖-アミノ酸のメイラード反応を起こさない条件をコントロールとし、発現量が半減した遺伝子を38個、2倍以上となった遺伝子を97個明らかにした。発現量が2倍以上となった97遺伝子から、①既知のHEMF生成遺伝子情報、②Gene onthology解析結果、③推定されているHEMF生成経路、の3つの情報をもとにHEMF生成関連遺伝子をスクリーニングした結果、15遺伝子が抽出された(FET3, ERG3, ERG4, ERG5, ERG25, YHB1, HBN1, AAD4, ADH6, FIT2, FIT3, SIT1, FTR1, SOL3, TKL1)。これら15遺伝子をS. cerevisiaeにおいて高発現させたところ、予想とは反してYHB1、FTR1高発現株でHEMF生産性が約1/2にまで低下した。高発現させることでHEMF生産性が向上する候補遺伝子は取得できなかったが、HEMF生成に何らかの形で関与する新たな候補遺伝子を選抜できたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり、HEMF生成条件下で高発現するものがHEMF生成関連遺伝子であると想定しRNA-seqによる遺伝子プロファイリング解析を行った。破壊によってHEMF生成能が低下することが明らかとなっている既知遺伝子(87遺伝子; Uehara et al., Appl. Environ. Microbiol. (2015))の挙動は残念ながらコントロールと大きな差は見られなかったが、発現量が2倍以上となった遺伝子を97個、1/2以下となった遺伝子を38個新たに見出した。発現量が2倍以上となった遺伝子のうち、【概要】でも記載した基準で15遺伝子を抽出しS. cerevisiaeで高発現させたところ、YHB1、FTR1の2遺伝子においてHEMF生産性が約1/2以下にまで低下したことから、HEMF生成に何らかの形で関与する新たな候補遺伝子を選抜できたと考えている。以上のことから、達成度としてはおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)初年度の研究より、高発現させることでHEMF生産性が低下するネガティブ制御遺伝子の候補としてYHB1、FTR1を見出した。これら候補遺伝子が真にS. cerevisiaeのHEMF生成に関与しているかどうかを検討するため、遺伝子破壊によりHEMF生産性への影響を確認する。 (2)(1)と並行し、HEMF生成をポジティブに制御する新規遺伝子の同定を初年度に引き続き試みる。遺伝子破壊によりHEMF生産性が半分以下となる87遺伝子を申請者らは明らかにしているが(Uehara et al., Appl. Environ. Microbiol. (2015))、その際破壊することでわずかに低下する遺伝子リストも取得している(データ未発表)。これら遺伝子リストと、HEMF生成条件下で発現量が2倍以上となった遺伝子リストを用いて再度候補遺伝子を抽出し、S. cerevisiaeでのポジティブ制御遺伝子を同定する。 (3)さらに、酵母細胞内代謝産物の挙動を調べることでHEMF生成条件下で活性化されている代謝経路を明らかにし、HEMF生成経路の全容解明ための基礎データも取得する。 (4)2年目の計画に沿って耐塩性酵母Zygosaccharomyces rouxiiのゲノム解析によるゲノム情報基盤の整備、およびそれを活用したオルソログ探索・in vivo解析を実施し、Z. rouxiiにおける新規HEMF生成関連遺伝子を明らかにしたい。
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