2021 Fiscal Year Research-status Report
「考え、議論する道徳」の理論的基礎づけ――思考・他者・対話を中心に
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20K13842
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
平石 晃樹 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (00786626)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 道徳 / 歓待 / デリダ / レヴィナス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「思考」・「他者」・「対話」という三つの観点から「考え、議論する道徳」という教科化後の道徳教育の基本コンセプトを検討することで、その理論的な基礎づけを目指すものである。二年目にあたる本年度は、研究計画にしたがい、道徳と他者との関連を主題とした。 具体的に述べると、道徳科において特に問題となる「価値観を共有しない他者」という他者の形象に対象を絞り、そうした他者といかに関係を構築するかを「歓待」という観点から検討した。そのために、デリダ、レヴィナスを中心に歓待をめぐる思想を詳細に検討した。また、バンジャマン・ブゥドゥ、ギョーム・ル・ブラン、アンヌ・ゴットマンら、広く人文社会諸科学における現代フランスの歓待論の調査・文献精読も行った。 その結果明らかになったことのひとつは、デリダの歓待論が浮き彫りにする、歓待の自壊性とも言うべきものである。歓待の条件は主人が主人であり続ける同一性である。だがこの同一性は客を主人に同化する結果を伴う。したがって歓待の条件は同時に歓待の不可能ともなっている。教育学において歓待は身につけるべき徳のひとつと見なされがちだが、デリダの所論はそうした凡庸な理解を問いなおす視座を提供するものである。それはまた同時に、歓待という概念が、「子どもという新参者を世界に導き入れるいとなみとしての教育」(アレント)に刻まれた課題と困難を把握するために有効なカテゴリーでもあることを示してくれてもいる。 以上の研究成果の一端はすでに論集『個と普遍』にて公刊されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度もまた、COVID-19の感染拡大によりフランスでの文献調査を延期せざるを得なかったが、その分の時間を文献調査・精読や論文執筆に充てたり、また研究着想時にはなかったいくつかの新たな着想を得たりすることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画にしたがい、次年度は道徳と対話との関連を主題に据え、速やかに成果が公表できるよう努める。予定していたフランスでの資料調査については、COVID-19感染症の状況にもよるが、次年度は最終年度に当たるため実施したいと考えている。
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Causes of Carryover |
COVID-19感染症の拡大により予定していた文献調査をはじめとする出張が軒並みキャンセルとなってしまい、旅費が大幅に余ったため。次年度は感染症拡大状況を注視しつつ計画していた出張を行う予定だが、場合によっては旅費の一部を関連の図書購入にあてるなどして柔軟に予算を執行する。
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Research Products
(4 results)
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[Book] 個と普遍2022
Author(s)
杉村 靖彦、渡名喜 庸哲、長坂 真澄
Total Pages
422
Publisher
法政大学出版局
ISBN
4588151223