2021 Fiscal Year Research-status Report
協働的な学習に関わる教師の主体的実践を支えるカリキュラム編成論の構築
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20K13849
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
福嶋 祐貴 京都教育大学, 大学院連合教職実践研究科, 講師 (10826100)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 協同学習 / 協調学習 / 教育目標 / カリキュラム / 授業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、個人の学びに焦点化してきた従来のカリキュラム論および教育目標論のパラダイムを転換させ、協働的な学習とその評価の質を高めるカリキュラムの在り方を明らかにするとともに、形式的・技術主義的な「授業のスタンダード化」を乗り越える実践指針を発信することにある。その背景には、「主体的・対話的で深い学び」につながる学習指導方法が独り歩きしてしまい、協働的な学習が行われるそもそもの授業が形式的となる事態、すなわち何を学ぶために子どもたちに協働させるのかという実践の目的意識が希薄となってしまう傾向にあるという問題がある。こうした課題の解決に向け、本研究では次の二つの課題を設定している。(A)カリキュラム論のレベルで協働的な学習の原理的構造を検討し、真に「主体的・対話的で深い学び」を実現できる実質的な実践指針を導き出す。(B)協力校との連携および自らの教育実践においてデザイン・リサーチを行い、Aの理論的検討を通して得られた知見やモデルを実践現場にて検証することで、協働的な学習の質を高めるカリキュラム、ひいては授業の在り方を明らかにする。2021年度は2020年度に引き続きAに関わる文献調査を進め、学会の場で議論を展開した。またBとして、教職大学院を中心とする自らの教育実践において、ICTも活用しながらAから得られつつある知見を試した。具体的な実績は次の2点にまとめられる。(1)学習者同士の協働に対する構造的把握に関してさらに踏まえるべきカリキュラム論的視点の明確化。(2)ICTを用いた教育実践による知見の実践的検討。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の研究により、「研究実績の概要」において記した(1)および(2)について進展が得られた。(1)としては、カリキュラム論の専門学会である日本カリキュラム学会の研究集会において学会全体の規模で議論をする機会が得られた。2020年度の研究において、米国における協働的な学習の歴史的な成立・展開過程を俯瞰的に再検討することによって構築した全体論的な枠組み自体については、その歴史的検討の妥当性からある程度の価値が認められた。しかしながら、現代カリキュラム論において重視されている「達成されたカリキュラム(attained curriculum)」の視点、すなわち学校教育の中で学習者が実際に何を学び得たのかという視点が不足していることが明らかになった。(2)としては、学級事務についての検討によって実践的追究の地盤を固めたうえで、ノートPC、360度カメラ、VRゴーグル、プログラミング教材といったICT機器を導入・活用した実践を、教職大学院や教職課程といった自らのフィールドで行うことを通して、Aで得られた知見を実践的視点で検討した。ICT機器を人工物と見なし、それを介して学習者の協働的な学習を促進すること、および音声認識等の先進技術を用いて協働的な学習を評価することに対して、道具(ICT)の持つ歴史性や、協働的な学習の文脈としての共同経験といった、カリキュラム論的視点の重要性が確認され、今後の検討課題が明確となった。ただし実践的には未だ模索的な状況にあり、デザイン・リサーチの基盤の構築は進められたものの、(2)に関する具体的な研究実績を発表するには至っていない。以上より、進捗に関してある程度の紆余曲折を経ているとはいえ、研究全体としては概ね順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究を通して、協働的な学習とその評価の質を高めるにあたり、元々報告者が想定していた教育方法学的・社会学的・政治学的視点に加え、学習者の学び得た「達成されたカリキュラム」というカリキュラム論的視点を踏まえながら、協働を媒介する人工物の歴史性や学習者の共同経験を豊かにしていくことの重要性が明らかとなった。したがって今後の研究においては、これらの観点に立った理論的・実践的研究がさらに必要となる。具体的には、2021年度から引き続きICTに着目し、必要な機器を研究拠点に導入・整備していき、協働を媒介する人工物としてのICTという視点をさらに深めていく。加えて、海外の文献調査を中心とした理論的な検討も継続して行う。その際には、そうした理論的検討を実践的検討と有機的に連関させる形で、フィールドにおいて学習者の産出した成果物を「達成されたカリキュラム」ととらえ、学習者にとって協働がどのように生かされたか、どのような意味を持っていたかなど、カリキュラム論的視点を取り入れたアプローチをとりたい。実践的検討の場としては、教職大学院・教職課程における自らの実践のフィールドを引き続き生かすとともに、今年度より再び直接的に参入できることが確定している複数の学校現場をもフィールドとして、より妥当性を高めていく。なお、外部のフィールドに関わる際は、研究倫理に則ることは当然として、当該現場が抱える課題に寄り添うことに第一に努める。そのうえで、協働的な学習の質の向上という課題が、昨今の教育政策の中で普遍的に共通理解されていることに鑑みる形で、本研究の検討を行うこととする。以上を通して、協働的な学習とその評価の質を高めるカリキュラムの在り方を明らかにし、実質的で主体的な意思決定を喚起する実践指針の発信につなげていくことを今後の推進方策とする。
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