2020 Fiscal Year Research-status Report
19世紀プロイセンにおけるミュージアム政策の教育思想史的研究
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20K13864
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Research Institution | Sakushin Gakuin University Women's College |
Principal Investigator |
伊藤 敦広 作新学院大学女子短期大学部, 幼児教育科, 准教授 (30781843)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フンボルト / プロイセン / 人間形成 / 陶冶 / 教育思想史 / ミュージアム |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀プロイセンにおけるミュージアム政策の教育思想史的検討を主題とする本研究は、研究開始年度である令和2年度において、フンボルトの思想(人間形成論、陶冶論)の内実に関する検討を集中的に行った。その成果を教育哲学会第63回ラウンドテーブル「人間形成概念の再検討:理論と経験をつなぐには」において、「フンボルトの思想と人間形成概念」と題して発表した。同内容は加筆修正の後『教育哲学研究』第123号に掲載されている。また、教育思想史学会編『近代教育フォーラム』第29号においても、「教育思想史におけるヴィルヘルム・フォン・フンボルト:「古典的陶冶理論」の生成および展開の可能性」と題した論文を発表している。 研究初年度にフンボルトの思想を取り上げたのは、「プロイセン国芸術愛好者協会」の代表的人物であった彼が、19世紀プロイセンのミュージアム政策構想・実践において中心的役割を果たしたためである。具体的には1790年代に書かれた書簡や「人間性の精神について」などフンボルトの人間形成観を示すテクストを取り上げ、その内容の検討を行った。これによりたとえば、そこに見られる人間がもつ諸能力の調和的発達、自我と世界の絶え間ない相互作用、個性の重視といった要素が今日の教育学研究においては肯定的に評価されていることを示し、「古典的」な人間形成論が現代においてもなお議論の前提とされていることを明確化した。それと同時に、その人間形成論が批判される理由が、その調和的かつ楽観的な人間形成観および経験研究との接続不可能性にあるという現代の議論が、必ずしも思想史的背景を十分に踏まえていないことをフンボルトのテクストにもとづきつつ明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ミュージアム政策を人間形成論の立場から歴史的に位置づけなおす試みである本研究は、その重要な要素の一つであるフンボルトの人間形成論(陶冶論)の研究および、人間形成をめぐる概念史研究なくしては進展しない。初年度は現代ドイツ教育学研究におけるフンボルト評価の再検討を行い、それを学会で発表したとともに、(まだ研究成果の公開には至っていないとはいえ)現代のゲルマニストによる人間形成概念史研究、20世紀前半のドイツで展開された(フンボルトを重要な対象の一つとする)人間形成理念の社会学的研究を取り上げて批判的検討を行ったという意味では、一定の進展は見られたと考えている。 とはいえそうしたテクストの内在的解釈、コンテクストの解明は、ミュージアム政策の思想史的検討を主たる眼目とする本研究においては、研究の前提と見なすべきものである。本研究を今後順調に進めていくにはミュージアム関連の一次文献(可能であればドイツ本国に存在すると考えられる手稿等)の蒐集とその内容の検討がどうしても必要になる。初年度は新型コロナウイルスの世界的感染拡大、およびそれが予想以上に長期化したことに伴い、当初予定していた国外(特にドイツ)での資料蒐集が不可能になった。既刊のアカデミー版全集や、関連先行研究検討を通じてミュージアム政策を教育思想史のコンテクストに位置づけなおすための準備を行うことができたとはいえ、上記のような理由で本研究はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目である令和3年度は、フンボルトの人間形成論の研究、人間形成をめぐる概念史研究を継続しつつも、徐々にミュージアムをめぐるテクストに研究の重点を移していく。具体的にはベルリン・ミュージアムを主題とする美学、哲学、社会学関連の先行研究を参照しつつ、「プロイセン国芸術愛好者協会」の実態についてより精緻な検討を行なう。また、新型コロナウイルスの感染状況に左右されるとはいえ、可能であれば年度末に当初より予定していたドイツ・ベルリンを中心とした文献調査・実地調査を実施する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、当初予定していた国外での文献調査が不可能になった。そのため主に国内での研究会等への参加に旅費を使用したが、こうした理由により次年度使用額が生じている。 次年度は、年度末に可能であれば予定していた国外での文献調査を行う。
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