2020 Fiscal Year Research-status Report
知的障害児童生徒の目標・評価システムへの包含――アメリカ合衆国での理論形成と課題
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20K13870
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
羽山 裕子 滋賀大学, 教育学部, 准教授 (20737192)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アメリカ合衆国 / 知的障害 / 教育目標・評価 / NCEO |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は研究の一年目であり、研究対象であるNCEO(national center on educational outcomes)の機関としての性格や研究の方向性といった基本情報を整理することを目標とした。具体的には、NCEOが開設当初から現在まで発行してきた全報告書類のテーマ分類を試みた。また、特に初年度の報告書を取り上げて、NCEOの設立趣旨や参照している理論などの分析を行った。 研究の結果として、NCEOの研究は当初予想していた知的障害児の教育目標・評価論にとどまるものではなく、英語を母語としない子どもなど障害以外の困難も一部視野に入れながら、「テスト」や「評価」を切り口として幅広く展開されてきたことがわかった。また州レベルでの取り組みを取り上げた報告書が複数存在し、それらは単なる包括的な実態調査よりも一歩踏み込んだものであることが予想された。具体的には、特定の州の報告書数が他より多く、そのような州の中には障害のある児童生徒に対する代替的評価(alternate assessment)の先駆例として有名なケンタッキー州やメリーランド州が含まれているといった点から、理論形成に資するような優れた実践例を発見・収集・公開するような役割をNCEOが担っていた可能性も考えられた。 以上の成果をまとめて、日本特別ニーズ教育学会にて自由研究発表を行った。なお、今年度の研究は以降の研究のための土台づくりに当たるものであったため、単体で論文や書籍として発表してはいない。このような文書としての発表は、今年度の研究成果を生かした次年度以降の課題としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、年度の前半は新型ウィルス流行に伴う大学運営の変更に係る業務が活動の大半を占めざるを得ず、研究遂行に遅れが生じた。また所属大学を含む各研究機関の図書館業務縮小もあり、幅広い資料収集は困難な状況にあった。ただし、このような研究状況の厳しさが年度の当初に判明したため、年度計画をその最初から組み直す余裕があり、結果的には一定の成果を挙げることができた。今年度の特殊な条件下で研究遂行のために行った工夫は次のとおりである。 まず、研究対象であるNCEOの全体像をつかむという目標はそのままに、そのアプローチ方法として幅広い関係資料の収集ではなく、NCEO自体の発行物の分析に注力するという判断を行った。これは、NCEOが発行している報告書類は、電子データとして入手することが比較的容易であるためである。また、収集にかかる負担が軽減されたことによる時間的・体力的余裕を生かして、初期の報告書の分析による機関の性格の分析だけではなく、現在に至るまでの全報告書を対象とした分類・整理も行った。このような工夫の成果として、発行物のテーマの傾向からNCEOの全体像をつかむことができた。また発行物を分類・整理して作成した表は、次年度以降のテーマ別の分析の際に基礎資料として活用することが期待できる。 つぎに、学会がオンライン開催されるという条件を生かし、例年は出張のための現実的制限(校務による休日出勤日と連続するため移動日が確保できない)のために発表を諦めざるを得なかった専門学会での発表を試みた。その結果、発表内容に対する質問だけではなく、今後の研究の進め方についても有益な助言を得ることができた。 以上から、2020年度の研究は当初予定していた内容と多少の変更はあるものの、十分な成果を挙げたと判断し、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の当初計画では2021年度に一回目のアメリカ合衆国での資料取集を行うことになっていたが、新型コロナウィルス流行下では困難であると考えられる。そこで2021年度の研究の重点は実態調査および資料収集から理論形成過程の探究へと切り替える。具体的には、今年度の成果をもとに、研究対象であるNCEOの初期の理論形成過程を探究することを目指す。その際、一次資料の分析に加えて、分析枠組みを確かなものにするため、平等論などの哲学・倫理学・社会学での議論や成果も学びたい。 2021年度の具体的な作業目標としては、2020年度に引き続き、初期の理論形成過程の解明を進めていく。またNCEOの長きにわたる研究期間の中で、特にアメリカ合衆国全体の教育に大きな動きのあった時期、たとえばNCLB法の制定や障害者教育法の改正といった時期の前後に注目して、NCEOがそれらの画期をどのように受け止めているのか、また理論形成や研究遂行の方向性に何らかの変化を生じさせているのかといった点も分析していきたい。 さらに2022年度以降の研究については、海外での研究活動が早期に再開可能となった場合には、2021年度に予定していたアメリカでの実態調査や資料収集を2022年度に実施し、その先の計画については予定通り遂行することとしたい。一方で、海外での研究活動に多少でも新型コロナウィルス感染リスクが残されている場合には、教員養成機関に勤務するという事情に鑑みて、渡航を自粛せざるを得ない。もしこのような渡航を自粛せざるを得ない事態が研究の後半まで継続される場合には、研究期間の延長も視野に入れる。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウィルス流行により学会のほとんどがオンライン開催となったため、出張のための旅費に余剰が出た。また、他大学の図書館に直接出向いて資料収集を行うことが困難であったため、調査旅費にも余剰が出た。これら余剰金の一部は、次年度以降に繰り越された資料収集等のための調査旅費に用いる。また、次年度以降も学会や研究会のオンライン開催が継続される場合には、オンライン上でのスムーズなやり取りに必要な通信関連機器や、発表資料作成のために必要な動画作成ツール等の購入にも充てる。
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