2021 Fiscal Year Research-status Report
知的障害児童生徒の目標・評価システムへの包含――アメリカ合衆国での理論形成と課題
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20K13870
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
羽山 裕子 滋賀大学, 教育学部, 准教授 (20737192)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アメリカ合衆国 / 教育目標・評価 / カリキュラム / 知的障害 / accommodation |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は研究対象であるNCEO(National Center on Educational Outcomes)の研究成果のうち、特にハイステイクスな評価を取り上げたものに注目して内容分析を進めた。NCEOでは、州ごとの学力テストや入学試験など、関係者(受験者本人、受験者の所属する学校の教員等)の処遇に強い影響を与える評価をハイステイクスな評価と見なしていた。そして、ハイステイクスな評価において障害のある児童生徒のための配慮がいかに提供されているのかを、各州の実践の調査と研究論文のレビューとを中心に解明し、その成果を主要刊行物である総合レポート(Synthesis Report)数本において報告していた。 本研究では、これら総合レポートを分析の対象とし、どのような研究視角のもとにNCEOが調査を進めていたのか、結果として何が提示され、それに対していかなる考察が加えられていたのかを検討した。その際、特にハイステイクスな評価において評価内容に踏み込んだ配慮が求められると考えられる知的障害に注目した。 2021年度の研究において分析が完了したのは、NCEOの初期の成果である1990年代の総合レポートであった。そこで明らかになったのは、①主にレビュー研究を通して、ハイステイクスな評価を分析する視角がⅰ)カリキュラムへの効果、ⅱ)生徒の学習への効果、ⅲ)生徒や教師の態度や学習の雰囲気(climate)への効果、ⅳ)コスト対利益と設定されていたこと、②排除と参加の意味を複層的にとらえる言説が見られたこと、③障害児童生徒がハイステイクスな評価に参加するための具体的手段にも目配りがされており、特に複数の州間での配慮(accommodation)の差異が整理されていたことであった。一方で、大半の議論は障害種を特定せずに進められていたということも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、検討対象となる資料を多数所蔵する首都圏の大学およびアメリカ合衆国において資料収集を実施する予定であり、予算も大部分を旅費に充てていた。しかしながら、新型コロナウィルスの流行がおさまらず、本務への影響を考慮して、遠方への出張は見合わせざるを得なかった。そのため、今年度も既有資料の範疇で分析が完了するテーマに絞って研究を進めることとなり、カリキュラム構造全体の解明ではなく、学力テストにおける配慮に限定した議論となった。 テーマを限定したことで、当初の研究計画では十分に注目できていなかったハイステイクスな評価をめぐる論点を深く理解することにつながり、2022年度以降の分析にも生かせる基礎的な素養を得ることができた。これは予想外の利点であった。しかしながら、単年度で成果を出すために十分に練ったテーマではなかったため、解明できた内容の斬新さという点では課題が残った。2020年代の障害児教育研究の感覚をもってすれば予想可能な結論に留まってしまったことから、そこに至る実証プロセスについて学会発表のみ行い、成果を学術論文としてまとめることは断念した。 なお、アメリカ合衆国に関する資料収集・分析が予定通りに進められなかった分、比較対象となるような日本国内での知的障害児の教育課程・教育内容に関する分析を、予定外ではあるが進めることとした。こちらの成果は学術論文としてまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度においても、海外での資料収集が可能となるかどうかは不透明である。そこで、国内での他機関所蔵資料の調査が再開できるよう注力したいと考えている。現時点までは、他機関調査無しで入手可能な資料に基づいて研究を進めているが、NCEO発行の資料に偏ってしまうため、その資料の持つ価値を客観的に判断することが難しい状況であった。この状況を改善するためには、分析対象となるNCEO資料が発行された時期と共通する時期に、関連分野の学術雑誌で行われている議論を併せて考慮することが不可欠であると考える。該当するような学術誌は所属機関に所蔵が無く、電子ジャーナルによる閲覧も困難であるため、①当該分野の雑誌を複数所蔵する首都圏大学への出張相互利用の可能性を出来る限り探る、②①が困難な場合は、複数年度分の目次の複写取り寄せや、所属機関以外での電子ジャーナル閲覧の方途を探るといった方策で現状を打開したいと考える。
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Causes of Carryover |
2021年度は所属する学会の大会がいずれもオンラインで実施されたため、学会への参加や発表のための旅費が発生しなかった。また、新型コロナウィルス流行下で県外や国外での資料収集を見合わせざるを得なかったため、そのために予定していた旅費も使用しなかった。 未使用の旅費については2022年度以降に繰り越し、感染予防のため実施時期未定のまま延期している資料収集が可能になり次第、支出する計画である。
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