2022 Fiscal Year Research-status Report
Hermeneutics of "Locality": A Microgenetic Study of Understanding the School District as a Basis for Educational Practice
Project/Area Number |
20K13892
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
木下 寛子 九州大学, 人間環境学研究院, 准教授 (40807195)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 学校 / 校区 / 地域性 / 解釈学 / 実践知 / 翻訳 / フィールドワーク / 社会科学の方法 |
Outline of Annual Research Achievements |
地域性理解は学校教育・学校生活の諸実践にとっての基礎をなすが、いまだ十分に理解されるに至っていない。このような見通しに基づき、地域性理解の内容およびその発生プロセスの解明を目標とする本研究に対し、昨年度までの研究では、「学校・校区」の理解を、移動しながらも校区で暮らす都市生活においてのもの、あるいは「暮らしの場としての学校・校区」として理解する視点を導き、厚みと多義性を持った問いの再設定を進めていた。 今年度(2022年度/令和4年度)は、フィールドでの学校成員らの発話採集に基づき、その解釈と理解が進む契機を抽出することが目標となる段階を設定していた。また、この探索的なプロセスに資する現代解釈学の概観を行うことが課題となっていた。さらに、感染症拡大状況下の2年間の間に生じた大幅な学校組織成員の入れ替わりや編成の変更、および申請者自身の研究拠点の変更を背景として、調査そのものの前提となる学校の状況理解のしなおしと関係性再構築が最優先課題と見込まれていた。 以上のような見立て・展開を踏まえ、フィールドワークでは保護者や子どもたちの校区理解の微視発生的な過程に立ち会うと共に、それに手がかりを得て、教師らがあらたな理解を得ていくプロセスに立ち会うことができた。 またこれらの調査と並行し、学校が校区のコモンズとして多義的に理解され、地域の成員、学校成員に共有されていく事例、学校や校区が絵や文章によって表現されることが教師の理解に何らかの仕方でインパクトをもつ事例など、個々の事例と共に地域・学校がその都度多様に理解されていく様と、そこに見えて来る地域・学校の理解の内容を明らかにして、学校教育研究やコミュニティ研究の領域との対話を進めてきた。また国内外の質的研究に関する諸学会で「解釈と翻訳」をテーマとしたシンポジウムを企画し、関連領域の研究者との議論を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展しているが、調査の方向性については変更が起おこり、研究成果に関しては現状として、まだ十分にまとまった形を示すことができていない。これは感染症拡大状況下の2年間の間に生じた大幅な学校組織成員の入れ替わりや編成の変更、および申請者自身の研究拠点の変更を背景として、調査そのものの前提となる学校の状況理解のしなおしと関係性再構築を最優先課題としたためのものであり、個々の課題としては順調に達成されている。また次年度の成果公開に向けてのメンターの交渉・依頼も進めており、本研究課題の総括に向けた準備も進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2023年度(令和5年度)は、本研究課題がこの前代未聞の時代の前代未聞の出来事の最中に始まり一端の区切りを迎えること、そのなかで変更せざるを得なかった研究の展開をも織り込んだかたちでの、問いに対する集約を行っていく。 当初の研究計画では、学校・教室における教師らの発話に絞って、その分析から地域性理解の発生プロセスを明らかにすること目指していたが、新型感染症の拡大状況下で想定されていた通りの参与観察の実現が難しくなった。一方で、感染症の拡大プロセスは社会全体に大きな変化をもたらし、当然ながら学校の在り方そのものにも大きな変を与え、教職員や子ども達、保護者らに対して、従来の学校の在り方自体を自明のもとせずに見て考えることができる契機をもたらしている。この大きな変動期にあって、「解釈」という行為が単なる方法論としての意味以上に、ある場所に生きる人全体に関わる大事な行為として理解される必要が生じつつある。また過去の些末な記録や資料(学校教職員や申請者が残している学校の日常の写真や記録)もまた、感染症拡大という大きな出来事を越えてまったく異なる意味を生じ始めている。昨年度までの経過ではトランスナショナルという事態を含めた「移動」のなかに学校や校区を位置付ける視点、そして校区を学びと育ちの手段に閉じない「暮らし」の単位として位置付ける視点を獲得したが、これらのすでに獲得され始めている視点と共に、「表現されたもの」と理解との関係を視野に入れながら継続的な調査を行う。それと共に、現代解釈学の概観を進めることで、いったんの研究課題の集約を試みる。
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Causes of Carryover |
国内外での学会に関する出張旅費を想定していたが、学会大会のオンライン化が決定されたため、想定を大幅に超えて支出に余分が出た。また、フィールドステーションの設置が感染症拡大下において現実的に困難となったため、その整備のための予算に差分が生じた。次年度は当該研究課題の最終年度であるため、特に成果公開に関する経費として充当する予定である。第一に、論文執筆時の英文校閲料、第二に、現地開催の学会等での発表、シンポジウムを企画予定であるため、その旅費が挙げられる。また、今後必要となる社会に対する研究成果公開の前段階として、九州大学研究博物館において本研究の実験展示を試みる予定である。その実験展示に関わる展示の印刷、物品にも充当する。
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