2020 Fiscal Year Research-status Report
高等教育のSTEM分野における女子の希少性に関する計量社会学的研究
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20K13904
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
白川 俊之 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 准教授 (40805313)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | STEM / ジェンダー / 高等教育 / 専攻分野 / 青少年 / パネル調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度(2019年度)に、いくつかの機会を利用して口頭発表を行った分析の結果をベースに、論稿を出版した。本研究の目的は、高等教育の専攻分野の選択に対するジェンダーの影響を明らかにすることに置かれているため、その点を中心に、研究実績の概要を述べる。
専攻分野の選択の性差、とりわけジェンダーとSTEM分野の関係を説明する要因として、学力に対する認識、職業意識、性役割観が有力視されてきたことを、先行研究の議論に依拠しつつ整理した。その上で、これら3つの要因を同時に考慮した、統計分析を行った。これらの要因のうち、専攻分野の選択に対する性別の影響を最もよく説明するのは、学力に対する認識であった。学力に対する認識を比較優位(文系科目と理数科目のうちより得意な科目はどちらか)のアイデアを応用して操作化し、専攻分野の選択の分析に利用したものとしては、本研究が国内では最初のものである。
また、家庭内における社会化の帰結を探るために、母親の性役割観が高校生の進路分化に与える影響をあらためて検討した。母親の性役割観の多様性を捉えるために「夫は仕事、妻は家庭」というタイプの性役割観に加え、ジェンダー本質主義に関する近年の議論を踏まえた指標も検討に用いた。その結果、「夫は仕事、妻は家庭」という意識とジェンダー本質主義に関係する指標は、ほとんど相関をもたないことが明らかになった。そして、これらのうち、高校生の進路分化を規定しているのは後者のジェンダー本質主義に関係する指標であることが、経験的に示された。この知見は、ジェンダーに関する従来とは異なるステレオタイプが母親の意識を介し高校生の進路選択に影響を与えていることについて、新たな証拠を提供するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで口頭発表を中心に発信してきた分析の知見を、複数の論稿としてまとめることができたため、研究成果は着実に積み重なってきているといえる。STEM分野の選択とジェンダーの関係に関して、従来の研究で必ずしも実証的に検討されていなかったいくつかの理論仮説について、その説明有効性の有無を、比較的新しいデータを使用して検証した。検証の方法についても、日本において利用可能なデータを使い、もともとの理論がもつ観察可能な含意を捉えるには、どのような分析が必要かを、十分に工夫した。以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度も、引き続き専攻分野の選択とジェンダーの関係に焦点を当てて、分析を行っていく。前年度までの研究で、専攻分野の選択の性差を引き起こすメカニズムのうち、学力に対する認識(自己認知学力、成功の見込み)、職業意識、本人の性役割観、母親のさまざまなジェンダー意識については、基礎的な知見を得ることができた。今後は、そこでまだ検討されていない要因のうち、重要性が高いと予想される職業期待の影響について、検討を行う。職業期待は専攻分野の選択と関係していることが暗黙のうちに想定されている一方、ジェンダーと専攻分野の選択の関係の分析では、これまであまり取り上げられてこなかった。職業期待を考慮することで、性別ごとの専攻分野の選択率が、どのように変わるかを、統計分析を行うことで推定する。その際、どのような方法で職業期待を操作化することが有効かについても、検討を行う。
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Causes of Carryover |
研究課題の申請時には想定していなかった新型コロナ禍のパンデミックの発生により、当初予定していた出張がすべてキャンセルになった。そのため、研究費の一部を旅費として執行することができず、残額は次年度以降、物品費等として使用することにした。
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