2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K13975
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
中野 登志美 宮崎大学, 教育学部, 准教授 (10757909)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 文学教材 / 比べ読み / 批判的思考力 / 教材分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度において、本研究は複数の小説教材を比べて読むことによって批判的思考力が育成されることを論証した2つの論文を発表した。 一つ目の論文は「文学教材の比べ読みにおける有用性の検討―川村たかし『サーカスのライオン』と宮沢賢治『よだかの星』を例にして―」(『論叢国語教育学』第16号、広島大学国語文化教育学研究室、2020年7月)である。 この論考では、『サーカスのライオン』と『よだかの星』を比べて読むことによって、両作品に共通する特徴である、中心人物の「本来いるべき居場所の喪失」、「現実から解放されたいという願い」、「他者への思い」、「悲願の達成」、達成感や満足感を表す「色」、「死からの再生」というテーマなどの観点を発見し、一つの作品だけを読むよりも、これらの二つの作品を読み比べて複眼的に思考することによって、批判的思考力が育成されることを考察した。『サーカスのライオン』と『よだかの星』を比べて読むことの有用性を論証している。 二つ目の論文は、「教材の特性を生かした学び -新美南吉『ごんぎつね』を例にして-」(『『月刊 国語教育研究』』第584号、日本国語教育学会、2020年12月)である。 この論考では、雑誌『赤い鳥』に発表された初稿の『ごん狐』と国語教科書に掲載されている『ごんぎつね』の最後の場面が異なっている点に着目して考察を行った。国語教科書の『ごんぎつね』の最後の場面の意味合いを考えるためには、作品の冒頭部分が重要になる。子ども達が『ごんぎつね』の最後の場面と冒頭の文章の意味合いに気づくことで、先行研究で指摘されているような「ごんと兵十の悲しい物語」とは異なる読み方が生み出される可能性を指摘している。異なる読みの観点が生み出されることは批判的思考力を育成する土台となることを踏まえて、『ごんぎつね』の場面構造を中心に論証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
海外ではどのように文学教材を読むことで批判的思考力を育成しているのかを学ぶために、海外での授業の視察を行い、その成果を本研究に取り入れる予定であった。しかし、世界規模のコロナウイルスの感染の影響のために、海外での批判的思考力の育成を目的とした授業の視察を行うことができない。 今年度もコロナウイルスの感染拡大が終息していないので、海外での視察は難しいと考えている。そのため、海外ではどのように文学教材を読むことによって批判的思考力を育成しているのかという観点を取り入れて分析した論文を発表することは難しいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、先行研究では「批判的思考力」の育成を目指して考究しているが、「批判」の定義はいくつもあり、「批判」の定義は定まっていないのが現状である。 そのため、本研究において、文学教材を読むことを通して育成される批判的思考力の「批判」の定義を明確にする必要がある。今後は先行研究を踏まえながら「批判」の定義を明確にする。 また、小説を中心とした文学教材を分析し、どのような教材を比べて読むことによって批判的思考力が育成されるのか、仮説を立て、具体的に実証すること予定である。 現在、高等学校の文学作品の定番教材である中島敦『山月記』の比べ読みの研究に着手している段階であり、論証を進めている。その成果を論文に発表したいと考えている。
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Causes of Carryover |
世界規模のコロナウイルスの感染拡大のために、海外での授業の視察ができなかったことが主な要因である。世界規模のコロナウイルスの感染拡大が終息しなければ海外視察ができないと考えられるので、今年度においても請求した助成金に対して使用額の差が生じると見込まれる。
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Research Products
(2 results)