2020 Fiscal Year Research-status Report
日米比較を通した幼年期の創造的美術教育モデルの構築
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20K13987
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Research Institution | Teikyo University of Science & Technology |
Principal Investigator |
渡部 晃子 帝京科学大学, 教育人間科学部, 助教 (40613493)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 創造性 / 幼年期 / ヴィゴツキー / 想像 / 模倣 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の第一段階として国内外の創造性研究の文献の渉猟を行い、創造性教育、特に美術教育における創造性教育の定義およびその構造について検討を重ねてきた。まず創造性研究の歴史を整理し、概観した上で特に創造性研究の端緒とみられる1920年代に焦点を絞った。さらに1920年代のヴィゴツキーの想像とその発達についての理論に照らして同時期の美術教育における創造性についての捉え方がどのようなものであったのかについて比較考察を進めた。それらの内容について以下のように大学美術教育学会・宇都宮大会において口頭発表を行った。 ・1920年代における美術教育における子ども観は、子どもの発見であり、子どもの生得的な想像性を引き出すことに焦点を当てていた。一方で1920年代に提唱されたヴィゴツキーの想像についての理論は経験の再構成である想像が創造へと発達していくという視点に立っている。 ・子どもの模倣について欧米や日本の美術教育において否定的な動きや運動があったのに対し、ヴィゴツキーは「模倣は子どもの重要な活動である」と位置づけ、社会的環境に着目した。 ・ヴィゴツキーは内的要因における想像と外的要因における想像という2つのイメージの構成が複雑に絡み合ったシステムによって子どもの想像は発達していくと捉えていた。彼の理論の応用は1990年代の米国のVisual Thinking Strategies(視覚的思考方略)に認められる。ただしヴィゴツキーが提唱した経験の再構成である想像が創造へと発達していくという展開や模倣行動の重要性、情動活動と知的活動の結びつきなどその理論の全体の応用にはまだ課題が残されていると考える。 以上の結論及び考察を踏まえて筆者は美術教育における創造性を多角的に捉えるためにヴィゴツキーの理論に加えて内的要因による想像と外的要因による想像の発達を支える媒介としての身体を提起した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍におけるオンライン授業への移行等により研究活動の時間が制限されることを余儀なくされた。それゆえ進捗状況はやや遅れが生じている。しかし主要文献の邦訳を進めることで米国を中心とした創造性研究の歴史的展開について把握することができた。さらに創造性研究の端緒を1920年代に絞り、ヴィゴツキーの理論に着目した。彼の理論と当時の美術教育の理論とを比較検討しながらその諸相を考察した。これにより同時代に子どもの創造性についての対照的な認識や理論が存在していたことがわかった。ヴィゴツキーの理論は1980年代以降の米国の美術教育に影響を与えていることを確認しており、米国における創造性の育成という観点から引き続き文献を調査していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
創造性の定義や位置づけを明確化した上で教育における創造性育成の意義や目的について検討していく。同時に創造性教育の方法についての事例を収集・調査し、創造性を引き出すための様々な技法を美術教育のモデルに応用できないか検討する。 また創造性を育むキーワードとして模倣と身体を設定し、その観点からの教育的事例を調査する。模倣が創造性に関わる可能性を仮定しており、模倣を教育に取り入れた事例を日米の文献から調査し、幼年期に模倣行動が果たす役割について明らかにしていく。具体的には米国に身体模倣を用いた鑑賞が19世紀初頭からあることを確認しており、日本にも紹介されていたことがわかっている。そのような事例を切り口として模倣と創造性や身体と創造性との関りについて検討していきたいと考えている。また米国への資料調査についてはコロナの状況を見極めながら検討していくこととする。
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Causes of Carryover |
学会参加のための交通費を計上していたが大会参加が全てオンラインとなったことにより交通費が不要となった。また資料調査の交通費についても計画通りに調査を実施することができなかった為。次年度に資料調査の実施およびオンライン資料請求等を活用して使用する。
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