2020 Fiscal Year Research-status Report
文学以外の古典資料を活用した新たな古典教育教材の開発―推論能力の育成と共に―
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20K13999
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
清田 朗裕 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (30784003)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 古典教育 / 国語教科書 / 往来物 / 学習指導要領 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,文学以外の古典資料を(も)活用した古典教育を通じて,児童・生徒に古典に対する学習意欲をもたせ,古典嫌いの児童・生徒を減少させる教材開発を行うものである。〈文学作品以外の古典資料の発掘〉と,学習意欲向上のための汎用的能力の育成,特に〈推論能力の育成〉を目指す研究を進めている(〈 〉内が特に重要な部分)。 本年度は,新型コロナ禍のため予定より進まなかったが,以下の①~③の成果を挙げた。①文学作品以外の古典資料の収集及びその資料性の検討(一部公開),②中学校・高校古典教科書掲載の教材整理(未公開),③指示詞等の意味・用法の整理を通じた推論内容の検討(一部公開)である。 ①は,新学習指導要領新設科目「古典探究」に初掲載の「往来物」について,従来ほとんど実践例がなく,往来物自体の検討が必要であったため,代表的な往来物のいくつかを収集・検討し,〈文体的特徴を生かした教材開発〉の可能性を見出した(継続課題)。 ②は,推論能力育成を図る前段階として,本文解釈においてどのような推論が行われるか検討するため,教科書掲載の古典テキストを整理した。その結果,中学校教科書に掲載の「那須与一」(『平家物語』)には,教科書含む『平家物語』諸本(「延慶本」「長門本」)の記述に異同があり,その部分が推論を必要とする箇所であることから,その表現・構成上の違いを比較・検討させることが,推論能力の育成に活用できる可能性を見出した。また,『平家物語』には,往来物の一種である『実語教』を捩った表現があることから,当時において,往来物が〈市井の人々にとっても身近な資料〉であったことを確認した。 ③は,指示詞の中には,曖昧な対象を指示するものや,〈前後の文脈や既有知識(一般的知識)から推論される〉ものがあることを確認した。また,指示詞以外の語についても取り上げ,前後文脈からどのような場面展開が生じるのか検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は,新型コロナ禍のため予定より進まなかったが,進捗状況は以下の①~④の通りである。①文学作品以外の古典資料の収集を行った,②高等学校古典教科書掲載の作品を整理した,③往来物を活用した学習指導案を批判的に考察した,④指示理解に推論を伴う指示語を分析した,である。以下,具体的に記す。 ①,②は,本研究課題で扱いたい重要文献,特に往来物関係の資料を収集することができた。また,現行の古典教科書掲載のテキストを整理することができた。 ③については,わずかだが提案されている学習指導案があったため,それを批判的に検討した。しかし,圧倒的に先行研究の数が少なかったため,新学習指導要領に基づく往来物の教材開発は進んでいないことが明らかになった。 ④については,本研究課題申請以前から進めていた研究対象を再考しつつ進めることができた。 以上が本年度の進捗状況だが,特に③については,検討対象自体が不足していたため,十分とはいえない。 なお,本年度は,本研究課題に関するものとして,研究発表2件(全国学会1件,ポスター発表1件),論文2本(うち査読有1本)発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は,主に以下の①~③の研究活動を推進する計画を立てている。 ①新学習指導要領に対応した先行研究の収集と批判的考察,②推論を伴う指示語の分析,③文学作品以外の古典資料を活用した教材開発に向けた打合せ及び実践研究,である。 ①は,前年度に引き続き往来物の検討を行うものである。 ②は,前年度に引き続き,推論を伴う指示語の分析を進めることで,古典作品における推論の様態を明らかにし,その知見のもと,古典教育の中でどのように活用できるか分析していくものである。 ③は,新型コロナ禍のため協力を仰げなかった勤務校の附属学校教員と打合せを行い,古典教育における現場の問題点をより精確に把握したうえで,本課題研究で取り組んでいる教材開発・実践の視点を検討するものである。特に,前年度の研究から,高等学校だけでなく,中学校の国語教科書に掲載されている作品に,本研究で推進したい推論能力を育成できる教材があると見通しを立てることができたため,附属中学校教員に協力を仰ぎ,本研究を推進していく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は,新型コロナ禍のため,以下の出張がまったくできなくなり,予定していた支出がなくなったことによる。具体的には以下の通り。①複数回参加予定であった全国学会や,教科書研究センター・教科書図書館への出張が不可能になったため,予定していた旅費をまったく支出できなかった,②全国学会等の場で得る予定であった古典教育に資する資料の情報が得られず,資料購入のための物品費の支出も予定より少なくなった,③附属学校園教員への聞き取り調査が行えず,現在の児童・生徒の実態についてアンケート調査ができなくなったため,統計処理を行うソフトの購入を見送った。 以上の状況であるため,新型コロナ禍の状況によるものの,次年度では,これらの元々予定していた出張旅費や,資料,統計ソフト等の物品を購入する計画を立てている。
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Research Products
(4 results)