2020 Fiscal Year Research-status Report
ポリティカル・アートによる市民性教育に関する基盤的研究
Project/Area Number |
20K14008
|
Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
藤原 智也 愛知県立大学, 教育福祉学部, 准教授 (50737822)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 現代アート / ポリティカル・アート / 市民性教育 / 美術教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代アートの特質は、近代までの美術が「視覚の愉悦」であったとした上で、M.デュシャンによって芸術の本質が「思考の促進」と再定義されたことにある。デュシャン以降の現代アートでは、「社会的コンフリクトの可視化」を課題とするプロジェクトが試みられ、特にJ.ボイスによる「社会造形」という概念によって明確化された。それは、資本家と労働者、男性と女性、大人と子どもといった人間間の搾取/被搾取だけでなく、人間と自然、西洋と非西洋、ハイカルチャーとサブカルチャー、現在と歴史といった現象も含めた搾取/被搾取という課題を主題化し、国家権力や資本主義への批判が内在している。本科研では、こういった現代アートの中でも政治・社会課題を扱うものをポリティカル・アートと定義し、その教育的意義を市民性教育の文脈から検討する。 初年度ではまず、現代アートの潮流を跡づけた。そこでは、メディア・アート、エコノミカル・アート、ポリティカル・アートでの三区分を行ったが、現代アートはこれらのいずれかないし複数の側面を持ちながら創出されている。ポリティカル・アートは欧州で盛んに営まれ、ドクメンタやヴェネチア・ビエンナーレなどの芸術祭が代表的なフィールドとなってきた。次に、日本の芸術祭では、文献およびフィールドワークによる調査によって、人と人の「社会的コンフリクトの可視化」はあまり主題化されず、特に人間と自然、現在と歴史に偏重したものであると分かった。またその背景には、政治や経済から距離を置く開催形式を確立することでそれらへの批判を可能にした欧米の現代アートに対して、日本のそれは政治や経済に依存する開催形式ゆえに批評性がスポイルされる構造的特徴があることを明らかにした。このように当初の現代アートが持っていた意義を改めて明確化した上で、それを市民性教育の文脈で美術教育の実践のあり方を模索するのが今後の課題である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍により当初の学校教育での実践事例についての調査は文献を主としたものに限定されたものの、現代アートや市民性教育に関する理論的な検討は文献および実地調査を通して予定より大幅な進展があった。その成果は、夏に投稿予定の学会誌論文にて纏める予定である。これらから、総合的に判断して「おおむね順調に進展している」といえる。 ただ、2年目に計画していた渡独調査は3年目以降の計画へ移行せざるを得ないという、今後の見通しの上での課題もある。教育実践と海外調査については、コロナ状況を見極めながら計画の柔軟な再構成をしつつ実施していきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
教育実践および海外調査については、限定的な実施や年度の繰越なども視野にいれながら、ファクターの重心に変更を加えながらも最終的な成果としては高い水準での研究結果をえられるよう工夫したい。具体的には、既に別のプロジェクトでの遠隔によるシンポジウム開催なども行っており、その方法を本科研にも持ち込んだドイツ関係者への聞き取りや、日本の専門家とのディスカッションの場の設定。専門誌や学会誌での関連する実践研究実施者への、遠隔での聞き取りや資料提供などである。これらの変更を取り入れながら課題を明確にした上で、科研3年度目には実地調査を含めた入念な検討を行えるよう研究を推進していいく。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍により、予定していた芸術祭のフィールドワークや学校教育にける実践事例の分析を行うことができなかった。これらについては、本年度から順次着手していく計画である。
|