2021 Fiscal Year Research-status Report
ポリティカル・アートによる市民性教育に関する基盤的研究
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20K14008
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
藤原 智也 愛知県立大学, 教育福祉学部, 准教授 (50737822)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 美術教育 / 市民性教育 / ポリティカル・アート / 現代アート |
Outline of Annual Research Achievements |
現代アートのなかでも、市民性原理に基づいた社会・政治・経済への批評的・批判的な作品やプロジェクトを「ポリティカル・アート」と位置づけ、その展開や日本における事例などの検討をもとに、学校教育における実践可能性を探っている。このような現代アートの営みは、ポスト・モダン社会における再帰性の高まりを反映しているものと理解する必要があり、近代社会の諸前提に対するメタ化という意味がある。 市民性原理についての教育は、欧米にて1990年前後から、市民性教育として明確化した上での理論と実践の研究がなされてきた。そして、現代アートを筆頭とする美術教育が、それを具体化させる重要な実践可能性を持つと考えられてきた。そこでは、①「社会的道徳的責任」、②「コミュニティへの参加」、③「政治的リテラシー」という市民性教育の構成要素の整理(英国『クリックレポート』1998)。民主主義は歴史的産物であり、自然法則や偶然によるものではなく、人類の経験と学習の結果であるという、子ども中心主義ないし放任主義とは一線を画す認識(ドイツ民主主義教育学会「マクデブルグ・マニュフェスト」)。学校運営への生徒参加や民主主義のシミュレーション実践(模擬投票・デモ)、地域社会への参加といった具体的な実践方針(米国『学校の市民的使命』、2003)が重要な影響力を持ってきた。このような潮流のなかで、美術教育ではE.ガーバーによる「市民性教育へのアートによる5つの貢献」(2010)、M.カンペールによる学校の根底原理における市民性教育を体現する上での現代アートの社会批評性と不平等の可視化の意義(2013)が指摘されてきた。これらの動向を踏まえつつ、日本の現代アートを主とした地域芸術祭、学校教育における市民性教育の位置付けについて批判的に検討した。また、愛知県内にて学生主体でのアートプロジェクトを企画し実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、本科研プロジェクトについてのシンポジウム開催2回、学会発表2回、招待講演1回を行い、これらの成果の一部は書籍出版(準備中含め3冊)に反映されている。コロナ禍により、教育現場におけるリサーチには一定の制約があるものの、これまでの日本における芸術祭や学校教育においては、標準的な市民性教育に基づくポリティカル・アート、特に人と人の摩擦や不平等を主題化するそれは、非常に限定的であることがわかってきた。そこには、日本と西洋との歴史の経緯や宗教観の違い、近代以降の足跡の差異があるものと考えられある。現在はこれらに関する基礎的な論究を進めるとともに、学校教育の授業実践への展開準備を行なっている。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍による一定の制約があるものの、理論的な研究の成果については美術教育専門の学会や論文、あるいは出版予定の書籍等にて発表を予定している。また、研究成果の一部を扱った展覧会を、公立美術館での統轄キュレーションを担いながら実施する予定である。特に懸念点としては、本科研プロジェクトの当初計画に織り込んでたドイツ・カッセル市での芸術祭ドクメンタの実地調査についてである。渡航の可能性については、国際情勢について注視しつつ、可能な限り積極的に模索したい。これらと並行して、実践可能な協力校にて、本課題に基づいた研究授業の実施と分析も行う予定である。
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Causes of Carryover |
予定したいた研究調査が、コロナ禍等の理由によって計画通りの実施が困難であったため。 今後は、当初予定のドイツの芸術祭と市民性教育の調査を確実に実行できるようするほか、想定していた研究水準はそのままに状況に応じた柔軟な計画の改定も視野に研究活動を行っていく。
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