2022 Fiscal Year Annual Research Report
ポリティカル・アートによる市民性教育に関する基盤的研究
Project/Area Number |
20K14008
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
藤原 智也 愛知県立大学, 教育福祉学部, 准教授 (50737822)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ポリティカル・アート / 市民性教育 / 美術教育 / 現代アート |
Outline of Annual Research Achievements |
基礎研究においては、人類進化における感覚と感情および社会性の獲得について、特に美術やアートと関わる近年の研究知見を整理した。そこでは、例えば約3000万年前の旧世界の霊長類から色知覚が二色型から三色型への変異や、5万年前の認知革命などを中心に検討した。総じて得られる見解は、感覚を介したコミュニケーションが人類の感情コミュニケーションを後ろ支えしながら進化を促し、この文脈の中でアートが獲得されたということである。 このような認知研究の成果は、近代の分業化された美術が「個」に傾注してきたことに対する反省を促す。その点で、社会課題を主題化する現代アートは、感覚や感情を介したコミュニケーション、それによる思考を促すことによって、現代における社会性の回復を目指そうとしてきたといえよう。実地調査では、海外のドクメンタやベルリン・ビエンナーレなどを検討し、市民性教育と近似した課題認識による社会的・政治的・経済的な問題への批評を組み込んだ作品群を、市民がディスカッションやワークショップを交えながら鑑賞している様子を確かめることができた。また、特に国内の芸術祭では、亀山トリエンナーレは特筆すべき開催形態をとっており、そこでは政官財界に対する忖度のないアーティストの選定や表現の自由が可能なプラットフォーム作りに成功していることが明らかになった。 このような自律した表現環境の中で、社会的・政治的・経済的な問題への批評を組み込んだポリティカル・アートを学ぶ機会は、現行の学習指導要領の中で明確に組み込まれていないのが現状である。とりわけ、他国の教育基準では現代アートや同時代のアートも位置付けられているが、日本にはそれがなく、基本的な内容構成は昭和時代から変わっていない。このような認識を背景に置きながら、学校教育における実践をどのように市民性教育の文脈から再構築していくかを考えていく必要がある。
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