2020 Fiscal Year Research-status Report
低所得層学生に対する経済的支援の効果の日中比較研究
Project/Area Number |
20K14024
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
王 帥 東京大学, 社会科学研究所, 准教授 (40743422)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 経済的支援 / 給付奨学金 / 低所得層 / 大学生 / 教育機会 / 学習行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,学生への経済的支援が学生の進学選択,そして進学後の学習行動に与える影響を考察し,特に限定された対象向けの経済支援政策の効果について検討することが目的である.2020年度は,以下の研究を行った. 第一は,学生への経済支援に関する政策文書の収集である.日中の社会的背景を踏まえて,経済支援政策の変遷を中心に関連資料を収集した. 第二は,経済支援政策の最新動向の整理と関連情報の収集である.コロナ禍の中,従来からの経済支援政策のほかに,経済的に困窮する学生を支援する対策が各国で行われている.経済支援の最新動向と社会的議論に関する情報を収集し整理を行った.この一連の作業は,コロナ禍の経済支援に関するアンケート調査の前段階として入念な準備を行った. 第三は,中国における学生への経済支援に関する既存調査の再分析である.2017年に中国で行われた調査データを用いて,10年前の調査データとの比較を念頭におきながら,大学進学前と在学中の2時点に着目して,各経済支援の利用状況を考察した.半数近くの学生が何等かの形で経済支援を受けていること,またニードベース型給付奨学金が最も利用されている経済支援であることには10年前と比べて大きな変わりはないことがわかった.低所得層学生の進学に対して貸与型奨学金が大きな役割を果たした一方,あえて利用しない状況が継続していることが確認できた. 第四には,収集した情報や既存調査の分析に基づいて,中国で実施予定の調査票を検討し,調査協力校と調整し,プレテストも行った.また,日本における学生の経済支援に関する調査の実施に携わり,高等教育の無償化や給付型奨学金に対する考え方を含めた一次調査データを得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画通りに経済支援に関する政策文書の収集や先行研究の整理ができたほか,コロナ禍で経済支援の最新動向に関する情報を集めることもできた.これらの資料は次年度調査の基礎資料となる.また,中国と日本の既存調査の分析を通じて,貸与奨学金の認知度と利用の関係,及び学習モチベーションや大学生活の広範囲に関する調査データの必要性が認識されることができ,これらの点を次年度の調査に組み込むことで,より質の高い調査につながるものと考える.さらに,日本で行われた全国学生調査のデータを用いた学生の学習行動の分析では,最近10年間にわたる学生の変化を把握することができ,これが総合的な視点で次年度の日中比較研究に取り組むことに大いに役立つ.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に集めた情報及び分析結果を踏まえて,中国で大学生調査を行う予定.調査票には時系列に学生の経済支援の利用状況を把握するため,これまでに行った調査の一貫性を維持しながら,コロナ禍での経済支援に関する調査項目を追加する.昨年度に日本の大学生を対象として行われた調査を元に,比較可能な項目を中国調査に入れて実査する予定である.収集したデータを用いて,低所得層学生の生活状況と学習状況を把握して,経済支援の利用状況及びその効果を検討していく. また,中国の大学で経済支援の担当者と大学生を対象とするインタビュー調査を行い,定量分析で把握しきれていないところを含めて検討していく.調査の結果を報告書の形で公開し,学術誌への投稿と学会発表を行う予定.
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Causes of Carryover |
(次年度使用額が生じた理由)昨年度は,新型コロナウィルス感染症の影響により,従来にはなかったさまざまな不確実性が増えた一年であった.中国では大学への登校が厳しく制限されており,特に調査予定の協力校においては,所在地域の感染状況が不安定なことから,調査できるような環境ではなかった.加えて,新型コロナウィルスに関する学生への支援策の模索が続き,その政策の効果を検証するにあたって,該当年度以降で調査を実施したほうがより効果的であるため,初年度に予定していた調査を次年度に延期することで,次年度の使用額が生じた理由となった.また,昨年度では渡航制限により,海外への現地調査ができなかったこともその一因である. (使用計画)今年に入ってから中国での感染状況がだいぶ落ち着いたため,調査協力校と調整しアンケート調査の実施に使用することを計画している.現地まで行けない代わりに,オンライン会議システムを活用しながら,インタビュー調査を行う予定である.また,論文執筆にあたり,英文校閲費や印刷費などに使用する予定である.
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