2020 Fiscal Year Research-status Report
日本手話学習者の音韻の誤用分析と明示的指導による学習効果
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20K14047
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
能美 由希子 群馬大学, 共同教育学部, 助教 (40839487)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本手話 / 音韻変化 / 複合語 / 第二言語習得 / 音声母語話者 / 学習者 / M2L2 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、第二言語としての日本手話教育における音韻獲得に焦点を当て、音韻の誤用を言語学的な観点から分析評価を行う。この知見を、日本語を母語とする学習者の手話および手話通訳教育の現場で活用し、大学における手話教育および手話通訳教育への貢献を目指す。 今年度は、聴者の日本手話学習者が手話表出をする場合に、どのような音韻エラーが見られるかを明らかにすることを目的とし、①手話の第二言語習得指導が積極的に行われている海外の文献調査、②文献調査に基づく実験研究を行った。 聴覚―音声モダリティの音声言語を母語とする人々(M1L1)にとって、視覚―身体動作モダリティである手話言語はバイモーダルなM2L2である。海外の M2L2に関する先行研究では、M2L2の手話学習者の音韻習得はモダリティの違いによる影響を受けており、手話の音韻パラメータのうち最も難しいのは「動き」であると指摘されていた。 文献調査の結果を踏まえ、M2L2の手話学習者の手話表出の分析を行う前段階として、どのようにインプットしているかに着目した実験研究を行うこととした。M2L2の手話学習者を対象として日本手話の複合語における音韻変化の適切性を判断する実験から、音韻変化の意識について分析した。その結果、①平均1.8年の手話学習歴を持つ場合、音韻変化の適切性をかなり正確に判断する力が身についていること、②音韻変化のパターンは、弱化エラーより強化エラーのほうが適切性を判断しやすいこと、③弱化エラーの適切性の判断は、M2L2の手話学習者が手話ネイティブと同等レベルに至るのは難しい可能性があること、が明らかになった。正答率が95.1%という上位群でさえも、弱化エラーに気づきにくいというのは、L2における音韻習得の限界と言えるのかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では、日本手話学習者の手話表出における誤用分析を行う予定であったが、海外のM2L2の先行研究では、M2L2の手話学習者の場合には手話をインプットする段階で困難さが生じていることが指摘されていた。そのため、まずは音韻を適切に判断できているかどうかを明らかにする必要があると判断し、研究計画に追加した。 コロナ禍で研究を進めるため、実験の実施は、オンラインにて行なった。指定した時刻に対象者に自宅からオンライン会議システムにログインしてもらい、教示や動画提示サイトのURLの連絡をした。また、音韻が判別できる状態で実験素材の手話映像を見て貰うために、モバイル端末ではなく、対象者自身のパソコンで受けるよう指示した。デバイス設定では、対象者のパソコンについてオンライン会議システムを起動したまま実験素材の教示用webページを最大化して取り組むよう指示した。対象者が課題に取り組む様子は、オンライン会議システムにて監督し、また対象者らからの質問等に答えるようにした。 このように、当初の予定から研究計画を追加したものの、オンラインを活用することで実験研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
R2年度に行った実験研究について、対象者を増やす、初期の手話学習者を対象とする、日本手話のスキルがあまり高くない学習者を対象とする、さらなる研究を行うことで、M2L2の手話学習者がどのように手話の音韻をインプットしているかについて明らかにしたい。 また、M2L2の手話学習者が手話の音韻をどのようにアウトプットしているかを明らかにしたい。これに関しては、語レベルだけではなく、句や文レベルのアウトプットについて、手話の音韻モデルを用いた分析を行うこととする。 また、インプットとアウトプットの関連を明らかにするために、音韻適切性の判断力と手話表出の関係についても研究・分析を進めていく予定である。 アウトプットの分析を行うにあたっては、手話ネイティブであるろう者に研究協力を求め、手話表出の許容度を確認することとする。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、(1)参加・発表予定の学会がWEB開催となり旅費が不要になったため、(2)分析等で学生アルバイトを雇用予定だったが構内立ち入り禁止となり雇用ができなくなったため。
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Research Products
(2 results)