2020 Fiscal Year Research-status Report
シングルケースデータのメタ分析による重度・重複障害児者の定位反応の解析
Project/Area Number |
20K14063
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武長 龍樹 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任研究員 (50629037)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 重度・重複障害 / 定位反応 / メタ分析 / 時系列分析 / コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
知的障害と運動障害をあわせもつ重度・重複障害児者の支援には、情報を伝えることができる感覚モダリティを確認した上で、かかわる際の覚醒水準の確認や、外界へ注意をむけられることを定位反応によって確認することが重要であると考えられている。しかしながら重度・重複児者の反応は微小で分かりにくい上に、日内変動や日間変動によって生じるかどうかの不安定さがある。それに対して本研究は、対象児者の反応の個別性を、複数回の実験的観察をメタ分析によって定量的に統合し、客観的に把握することを目的としている。 初年度は、定位反応を生じさせるために提示する刺激の種類の検討、刺激提示システムの開発、定量化された動きのデータについての時系列解析を行なった。刺激の時間的コントロールが容易な聴覚刺激について、参加児者の左右から逐次的に提示し、首振りや眼球運動が見られるかどうかを検討できるものを作成し、乳幼児に対する予備的な検討を行なった。さらに得られた参加児者の映像を可視化技術によって定量化した動きの時系列データについて、メタ分析に投入するパラメタとして状態空間モデルによる時系列解析の有用性について検討した。シングルケース研究のABABデザインの実験条件の効果を外生変数として投入した状態空間モデルによる時系列解析を行い、音声の提示によって自己刺激的な運動が減少するのに応じて、実験の効果量が変化することが明らかになった。 今年度の時系列分析では刺激を提示していないAフェーズと提示したBフェーズの実験条件の効果を、時間的に変化しない定数としてモデル化していたが、時間的に変化するものとしてモデル化することで、より柔軟で個別性の高いモデル化が可能になると考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染症の感染拡大予防のための活動制限によって、初年度に予定していた実験的観察の実施が困難であった期間は、実験的観察において定位反応を生じさせるために提示する音声刺激の種類の検討や、刺激提示システムの開発を行い、乳幼児に対する予備的な検討を行なった。さらに短期的な実験的観察によって実際に得られた重度・重複障害児者の動きの時系列データについては、状態空間モデルによる時系列分析を用いて刺激提示と連動した参加児者の動きの変化についての効果量を先行して検討した。 このように研究が進捗している一方で、コロナ禍での所属機関の研究活動制限と、医療的ケアの必要な重度・重複障害児者の多い特別支援学校や福祉施設への協力の要請が非常に難しく、長期的な実験的観察は実施できていない。以上のことから研究の進捗状況はやや遅れていると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、次の3つである。 1つ目の方策は、聴覚刺激を中心とした刺激提示に対する定位反応の継続的な実験的観察研究を実施することである。 2つ目の方策は、今後コロナ感染症の感染拡大予防のための活動制限が長期化することで、継続的な実験的観察が本年度同様に難しくなった場合についての代替案となる。当初予定していた観察実施場所以外においても、家庭・学校・病院・施設など対象児者が過ごす場所の支援者に協力を仰ぎ、オンライン会議システムを通じたタブレット端末による刺激提示と映像録画を行うことも検討し、予備的な準備を進めている。 3つ目の方策は、実験的観察によって得られた対象児者の動きの時系列データを、実験デザインのフェーズごとに5時点以上になるように要約し、これまでに提案されているシングルケース研究のメタ分析で用いられる複数の効果量を算出し比較して、その妥当性を検討することである。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍による活動制限により,予定していた対面での継続的な実験的観察の実施が困難となっている。さらに学会での発表についてもオンラインで開催されるようになり、予算として計上していた旅費をほぼ執行できていない。そのため、一部の予算が次年度に繰り越されることとなった。 本年度予定していた実験的観察は次年度に繰り越して実施することとする。さらに、これまで計画に組み込んでいなかった重度・重複障害児者が実際に生活している家庭、施設、病院などの養育者や医療従事者などに研究協力者を仰ぎ、オンライン会議システムを活用した観察も可能な限り実施し、研究を遂行する。
|
Research Products
(2 results)