2020 Fiscal Year Research-status Report
信頼の「解き放ち理論」と「根ざし理論」の統合―マルチレベルアプローチ―
Project/Area Number |
20K14140
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
福島 慎太郎 東京女子大学, 現代教養学部, 講師 (80712398)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 信頼 / 解き放ち理論 / 根差し理論 / マルチレベル |
Outline of Annual Research Achievements |
集団内部の安心(社会的な不確実性が低い状態)は、他者一般に対する信頼の形成を抑制するインセンティブ構造として機能する。このことを前提とした信頼の「解き放ち理論」は、国際比較調査および実験室実験によって支持されてきた。一方で、国内の地域社会群を対象とした調査は、集団内部の安心に基づいて他者一般に対する信頼が形成されるという信頼の「根ざし理論」を支持している。 本研究では、これら2つの信頼形成のプロセスの齟齬を解消するために階層性の視点を加え、個人および直接的な関係を持つ個人間(ミクロレベル)では信頼の「根ざし理論」が支持されるが、集団全体(マクロレベル)では信頼の「解き放ち理論」が支持されることを示すことで、信頼の「解き放ち理論」と「根ざし理論」を統合することを目標とした。 現在までに、社会的な流動性が低い個人においては安心が信頼の形成を促進するが、社会的ネットワークが密な環境に置かれることで安心が信頼の形成を抑制する、という安心と信頼の階層的な関連が示唆された。その上で、個人および集団全体(マクロレベル)の社会環境に加え、直接関わり合う個人間(ミクロレベル)の社会環境を捉えるための質問紙を設計した。 しかし、コロナ禍の影響もあり質問紙調査を実施するには至らず、今年度の研究課題とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、個人および直接的な関係を持つ個人間(ミクロレベル)では信頼の「根ざし理論」が支持されるが、集団全体(マクロレベル)では信頼の「解き放ち理論」が支持されることを示すことで、信頼の「解き放ち理論」と「根ざし理論」を統合することを目標とした。 事前に行ったプレ調査の分析結果から、社会的な流動性が低い個人においては安心が信頼の形成を促進するが、社会的ネットワークが密な社会環境に置かれることで安心が信頼の形成を抑制する、という安心と信頼の階層的な関連が示唆された。ただし、直接的に関わり合う個人間(ミクロレベル)の社会環境と間接的に関わり合わり合う他者を含む集団全体(マクロレベル)の社会環境を弁別できておらず、信頼の「解き放ち理論」と「根ざし理論」が成立するための階層的な境界条件を抽出することができていなかった。 そこで、2020年度に個人および集団全体(マクロレベル)の社会環境に加えて、直接関わり合う親密な個人間(ミクロレベル)の社会環境を捉えるための質問紙を設計した。しかし、コロナ禍の影響もあり質問紙調査を実施するには至らず、2021度の研究課題として持ち越した。 以上のように、プレ調査の分析結果から安心と信頼の階層的な関連が示唆されたが、本研究課題の主眼である個人間(ミクロレベル)の社会環境と集団全体(マクロレベル)の社会環境を弁別して抽出するための質問紙調査を実施することができず、「やや遅れている」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、2020年度に設計した質問紙を用いて、本研究課題の主眼である個人間(ミクロレベル)の社会環境と集団全体(マクロレベル)の社会環境を弁別して抽出するための調査を実施する。具体的には、住居の流動性に応じて選定されたコミュニティ群に居住する個人群に対する質問紙調査に加え、個人と直接関わり合う親密な他者(友人・知人)に対する質問紙調査を行う。 その上で、階層的なペア・データにマルチレベル分析を適用し、安心が信頼の形成を促進・抑制する階層的なプロセスを検証する。とりわけ先行研究から導かれる仮説として、1)信頼の「根ざし理論」は個人間(ミクロレベル)で生じるプロセスであり流動性の低い社会環境で促進されること、2)信頼の「解き放ち理論」は集団全体(マクロレベル)で生じるプロセスであり流動性の高い社会環境で促進されること、の2点を検証する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で郵送式の質問紙調査の実施を断念したため、経費の次年度使用が生じた。 2021年度は、2020年度に断念した質問紙調査を実施することにより発生する調査実施費用に加え、研究の遂行に際して必要となる文献購入費用、成果発表費用、渡航費用、成果物印刷・郵送費用等に、前年度より繰り越した経費を使用する。
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Research Products
(4 results)