2020 Fiscal Year Research-status Report
事件の発生時期が裁判員の心的過程と集団討議にもたらす影響
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20K14145
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Research Institution | Kyoto Bunkyo University |
Principal Investigator |
谷口 友梨 京都文教大学, 総合社会学部, 講師 (30844980)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 解釈レベル理論 / 心理的距離 / 事件の発生時期 / 集団討議 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、事件に対して知覚された主観的な時空間的距離(心理的距離)が集団討議にもたらす影響について検討するため、架空の犯罪事件のシナリオの妥当性の確認を行うことを目的とした予備的な調査を実施した。インターネット調査を通じて、176名の成人に対してアンケート調査を実施した。アンケート内容として、作成した架空の強盗殺人事件の概要を呈示し、事件に対して知覚された心理的距離感、その事件に対する被告人の有責的評価、犯罪行為・動機の悪質性、結果の重大性、再犯可能性、被告人に科すべき刑罰の重さについて評価することを求めた。 その結果、事件に対して心理的距離を遠く知覚するほど、被告人の有責的評価を高く見積もり、有責的評価を高く見積もるほど、被告人の犯罪動機の悪質性および再犯可能性を高く判断することが示された。さらに、被告人の犯罪動機の悪質性を高く見積もるほど、被告人に科すべき刑罰を重く判断することが分かった。これらの結果は、先行研究の知見を再現するものである。個人の量刑判断に至る心的プロセスに関しては、事件に対して知覚された心理的距離が影響を及ぼし、犯罪事象に対して心理的距離を遠く知覚するほど、犯罪に至った経緯ではなく、犯罪行為に対して注意が集中しやすくなるため、被告人に責任があると判断されやすくなることが示唆された。 以上の研究結果を受け、現在は、上記の予備的調査で妥当性を確認した犯罪事件のシナリオを用いて、本実験として、事件に対して知覚された心理的距離によって、どのような集団評議を経て集団で量刑判断に至るのかを検証中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度である2020年度には、上記の通り、実験に使用する架空の犯罪シナリオの作成に関する予備的調査の実施ができ、本実験実施のための準備を完了させることができた。本実験は、実験参加者を1室に集め、対面状況下で「集団討議」をするというものであり、2020年度中に着手する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症が日本中に蔓延したことによって、想定した方法での実験の実施ができない事態となった。これにより、2020年度は、予備的な調査の実施にとどまり、本実験の実施には至らなかった。 また、事件に対する心理的距離が処遇決定に及ぼす影響に文化観がどのように媒介するのかについて検証を行うために、インターネット調査を実施するための準備を行う予定であった。しかし、上述したように、コロナウイルス感染症の蔓延のため、世界的に「非日常」を感じるような状況であった。このため、様々な要因がデータに交絡する恐れがあることが推察された。したがって、こちらの研究についてもデータ収集について一時的に延期することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、上記の遅れを取り戻すため、2つの実験を実施し完了させることをめざす。まず、研究1として、コロナウイルス感染に対する予防を徹底したうえで、事件に対する心理的距離が集団での討議にもたらす影響について実験的に検証を行う。さらに、研究2として、事件に対する心理的距離が処遇決定に及ぼす影響に文化観がどのように媒介するのかについて、インターネット上で実験的に検証を行う。データが収集出来次第、随時、実験成果の発表と論文執筆を行っていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、前記のとおり、2020年度は、新型コロナウイルス感染症が蔓延したことにより、当初、計画をしていた2つの研究の実施がいずれもできなかった。また、国内外の学会発表についても延期またはオンライン開催に変更されたため、旅費が発生しなかったためである。 次年度の主な使用計画としては、物品費として、実験を制御するためのプログラムおよびノートパソコンの購入を行う。また、人件費・謝礼として、実験参加者に対する実験参加の謝礼と実験実施に対して補助をしてもらうアルバイトの雇用を予定している。その他の項目としては、インターネット調査会社に調査を委託するための調査費を使用することを予定している。
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