2021 Fiscal Year Research-status Report
事件の発生時期が裁判員の心的過程と集団討議にもたらす影響
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20K14145
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Research Institution | Kyoto Bunkyo University |
Principal Investigator |
谷口 友梨 京都文教大学, 総合社会学部, 講師 (30844980)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 解釈レベル理論 / 心理的距離 / 事件の発生時期 / 集団討議 / 集団比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、刑事裁判において事件の発生時期から知覚された事件に対する主観的な距離感(心理的距離)が、被告人の処遇決定における一連のプロセスにどのように影響しているのかを明らかにすることである。 本年度は、事件に対する心理的距離が処遇決定に及ぼす影響に文化観がどのように媒介するのかを明らかにするため、インターネットを通じて、100名の日本人の成人および100名のアメリカ人の成人に対してアンケート調査を実施した。文化的思考を測定するための尺度である、分析的-包括的思考尺度を用い、文化的思考について測定した。続いて、作成した架空の強盗殺人事件の概要を呈示し、事件に対して知覚された心理的距離感、その事件の原因の所在(内的属性/外的要因)、犯罪行為や動機の悪質性、結果の重大性、被告人に対する同情の余地、再犯可能性、更生可能性、被告人に科すべき刑罰の重さについて評価することを求めた。 その結果、日本人の場合、事件に対して心理的距離を近く知覚するほど、被告人の置かれた状況といった外的要因に事件の原因が帰属されやすく、外的要因に原因が帰属されるほど、被告人に対する同情が喚起され、被告人に科すべき刑罰を軽く判断する傾向がみられた。ただし、日本人の場合、心理的距離は、事件の原因を被告人自身に求めるといった内的帰属には影響を及ぼさなかった。 一方、アメリカ人の場合、事件に対して心理的距離を遠く知覚するほど、事件の原因が被告人の内的属性に帰属されやすく、内的属性に原因が帰属されるほど、被告人に対する同情の喚起が抑制され、その結果、被告人に科すべき刑罰は重く判断される傾向がみられた。しかし、アメリカ人の場合、心理的距離は、外的帰属には影響を及ぼさなかった。 以上のことより、日米の結果はいずれも解釈レベル理論に沿うものであるものの、その内容は異なる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、研究開始時に立てた目的のうち、(2)事件に対する心理的距離が処遇決定に及ぼす影響に文化観がどのように媒介するのかを明らかにすることについては、日本人とアメリカ人を対象とするインターネット調査を実施することができたため、おおよそ順調に進めることができた。しかし、研究開始時に想定していた目的のうち、(1)事件に対する心理的距離が集団での討議にもたらす影響を明らかにすることについては、依然としてコロナウイルス感染症の蔓延の事態が改善しなかったため、集団討議実験の実施が難しく、分析に足るデータ数の収集が完了しなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、コロナウイルスの蔓延状況をみながら、集団討議実験を少しずつ進めていく。また、これまでの実験では、架空の事件を用いたシナリオ実験を行ってきた。実際の裁判ではどのような判断がなされているかについて、判例を分析しながら明らかにしていき、本研究で得られた知見を社会に還元する手立てを考えていく予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は、集団討議実験を実施する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症蔓延の事態が改善されず、想定していた回数分の実験の実施を行うことができなかったため、次年度使用額が生じた。 次年度では、当該実験の実施のために当助成金を使用したいと考えている。具体的には、一般成人を対象として実験を実施するため、人材派遣会社に実験参加者の募集を依頼するための費用としての使用を考えている。また、実験で収集したデータを分析するための分析ソフトの購入に当助成金を使用したいと考えている。 加えて、次年度では、研究成果の公表を行いたいと考えており、学会参加のための費用および論文を執筆し、掲載された場合の掲載費用としての使用を考えている。
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