2020 Fiscal Year Research-status Report
複数のアイデンティティ発達経路によるひきこもりの特徴と有効な教育法の包括的理解
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20K14161
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| Research Institution | Hiroshima University |
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Principal Investigator |
日原 尚吾 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 助教 (20868244)
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| Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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| Keywords | ひきこもり / アイデンティティ拡散 / 否定的アイデンティティ / 縦断研究 / 青年 |
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| Outline of Annual Research Achievements |
青年がひきこもりに陥る経路には，自己の役割が不明確になるアイデンティティ拡散と，社会的に否定的な役割を自ら選択する否定的アイデンティティという2経路が想定される。2020年度における主な研究成果は3つある。第一に，否定的アイデンティティとひきこもりが縦断的に関連することを示す実証研究論文を執筆し，査読付き国際誌 『Development and Psychopathology』誌に掲載された。否定的アイデンティティはひきこもり症状を高めると予測していたが，逆に，ひきこもり症状が否定的アイデンティティを予測していた。つまり，他者や社会から離れ「ひきこもり」としての社会的に望ましくないラベルを取り入れ，否定的アイデンティティが形成されることが示唆された。第二に，拡散および否定的アイデンティティが高まる背景要因の一つであるアイデンティティの苦悩が，縦断的にどのような軌跡で発達するのかについての実証研究論文を執筆し，査読付き国際誌『Identity』誌に掲載された。アイデンティティに関する強い苦悩が拡散と否定的アイデンティティのリスク要因であることを考えると，拡散や否定的アイデンティティ者に対する介入へ示唆を与える可能性がある。第三に，拡散と否定的アイデンティティがひきこもり軌跡とそれぞれどのように関連するのかを検討する縦断調査を行った。具体的には，今後就職活動を行うことを予定している大学生約700名を対象に5点の縦断調査（3カ月間隔）を実施した。現在，査読付き国際誌への投稿を目指して分析を行っているところである。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度の目的は2つあった。第一の目的は，青年のひきこもり症状および，アイデンティティ拡散，否定的アイデンティティが互いにどのように関連し合っているのかを縦断調査によって検討することであった（研究1）。ひきこもり症状を示しやすいと考えられる就職活動時期に着目し，その時期の大学生約700名を対象として，2020年5月，8月，11月に縦断調査を行った。既に，ひきこもり症状の軌跡の分析を行い，予測の通り高いひきこもり症状を維持する軌跡を抽出している。現在は，そうした軌跡と，拡散および否定的アイデンティティとの関連を検討するための準備を進めている。そのため，研究1については順調に進んでいると評価できる。第二の目的は，ひきこもり者に対する面接調査を行い，彼らが抱える自己語りのつまずきの内容を詳細に検討することであった（研究2-1）。新型コロナウイルス感染症の広がりもあり，2020年度は，ひきこもり者の抽出ならびに対面での面接を実施することは困難であった。しかし，ひきこもり傾向の高い者の抽出や，インターネットを通したビデオ通話形式または記述形式での自己語りの収集は実施可能と思われるため，2021年度には問題なく実施できると考えている。
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| Strategy for Future Research Activity |
2021年度の目的は3つある。第一の目的は，2020年度に収集した縦断調査のデータを用いて，ひきこもり症状の軌跡と拡散および否定的アイデンティティとの関連について分析することである（研究1）。拡散者は，初めはひきこもりが高いが徐々に低減する軌跡に所属しやすく，一方で否定的アイデンティティ者は，ひきこもりが一貫して高い軌跡に所属しやすいと考えられる。第二の目的は，ひきこもり傾向の高い対象者約30名を抽出し，彼らが抱える自己語りのつまずきの内容を詳細に検討することである（研究2-1）。具体的には，抽出した自己語りを評定し，その内容の不明確性，および望ましいとされる生き方に対する否定性の得点を算出する。ひきこもり傾向の者には，不明確性が高い者と否定性が高い者とが多く見られると考えられる。また，自己語りの内容を質的に詳細に分析し考察する。第三の目的は，2種類の自己語りのつまずき（自己語りの不明確性と否定性）が，それぞれ拡散と否定的アイデンティティを媒介してひきこもり症状を予測することを，多数の青年・成人を対象に検証することである（研究2-2）。具体的には，青年と成人それぞれ約300名を対象に，3時点の縦断調査を行う。自己語りの不明確性からひきこもり症状への正の影響は拡散によって媒介され，自己語りの否定性からひきこもりへの正の影響は否定的アイデンティティによって媒介されると考えられる。
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| Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは，2020年度に流行した新型コロナウイルス感染症により，国内・国際旅費を使用しなかったためである。2021年度には自己語りを収集する縦断調査を行う予定である。縦断調査には多額の費用が必要であり，次年度使用額はそのために充てる。
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