2022 Fiscal Year Annual Research Report
複数のアイデンティティ発達経路によるひきこもりの特徴と有効な教育法の包括的理解
Project/Area Number |
20K14161
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Research Institution | Matsuyama University |
Principal Investigator |
日原 尚吾 松山大学, 経営学部, 准教授 (20868244)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 否定的アイデンティティ / アイデンティティ拡散 / ひきこもり / 自己語り / 発達心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,青年のひきこもり症状の長期的な経過を,アイデンティティが不明確になる拡散と,社会的に否定的な役割を受け入れる否定的アイデンティティから包括的に理解するものである。2022年度における研究成果は大きく3つある。第一に,アイデンティティ形成上で感じる苦悩 (distress) が,その後のひきこもり症状の高さを縦断的に予測することを示す研究論文を執筆し,査読付き国際誌『Frontiers in Psychiatry』誌に掲載された。アイデンティティの苦悩は,本研究の焦点であるアイデンティティ拡散と否定的アイデンティティ両方の発達経路に密接に関連すると想定されているため,その役割を示した点で重要な成果である。第二に,強いひきこもり症状を示す青年の自己語りのつまずきを分析し,国内外の学会において発表した。具体的には,強いひきこもり症状を示す青年が,「周囲と分け隔てなく円満な関係性を築くべき」や「より良い大学や会社に進むべき」といった「普通の生き方」に沿えないためにアイデンティティ発達に問題を生じていることを報告した。第三に,青年の多様な種類のトラウマやその後のストレス症状(複雑性PTSD症状)が,否定的アイデンティティの高さと関連することを示す研究論文を執筆し,査読付き国際誌『Journal of Adolescence』誌に掲載された。ひきこもりの青年は多様なネガティブな出来事を経験しストレスを感じやすく,そうしたネガティブ経験やストレスが否定的アイデンティティと関連することを実証的に示した本研究の意義は大きい。前年度までの成果とまとめて,青年のひきこもり症状とアイデンティティ拡散および否定的アイデンティティとの密接な関連性を,大規模縦断調査および面接調査によって包括的に理解することができた。
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