2021 Fiscal Year Research-status Report
小中学校のキャリア教育のための新たな「性格特性的強み」尺度の開発
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20K14166
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Research Institution | University of Human Environments |
Principal Investigator |
高橋 誠 人間環境大学, 人間環境学部, 准教授 (80779827)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 性格特性的強み / キャリア教育 / 強みに基づいた介入 / 小中学生 / ポジティブ心理学 / ストレングススポッティング / 強みの育成困難感 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は「キャリア教育のための性格特性的強み(CSCE)」尺度の開発を行い,社会で活躍するために小中学生から育成すべき強みとは何かについて検討することであり、主なテーマは、①CSCEリストを作成、②CSCEリストを活かしたキャリア教育プログラムの開発であった。さらに研究の進展の中で、プログラム実践者である教員が子どもに対して持つ様々な要因(資質や育成困難感等)が、介入プログラムの効果に影響を与えることが判明したため、③教員の要因に関する調査も行うこととした。 2年目となる2021年度の実績の概要は以下のとおりである。①「CSCEリストの作成」として、社会人を対象にオンライン調査を実施した結果、職業的成功要因(年収と職務満足度)と有意な相関がみられた54項目を見出し、これを暫定的なCSCEリストとした。これらの成果を『学校メンタルヘルス研究第24巻1号』と「日本学校メンタルヘルス学会第25回大会」にて示した。②「キャリア教育プログラムの開発」の実績として、まずは義務教育年代で必要とされるキャリア教育プログラムに関する先行研究についてまとめ、今後育成が必要となるキャリア教育の概要を示した。この成果は書籍『学校心理学の理論から創る生徒指導と進路指導・キャリア教育』(学文社)にて論じられた。さらに、大学生を対象にCSを活かしたキャリア形成プログラムを試験的に実施し、キャリア形成の中で重要な就職面接に取り組む姿勢を養成するという効果が示された。この成果は『キャリア教育研究,第40巻1号』に示された。 ③「教員側の要因の調査」について、現職教員や教員養成課程の学生を対象に、子どもの強みに注目する傾向(Teacher's Strength Spottiong:TSS)に関する調査を実施した。この成果は『学校メンタルヘルス研究, 第24巻1号』に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の中心的な目的である①「CSCEリストの作成」に関しては、1年目でCSリストと基礎的汎用的能力との関連性の検討、2年目でCSリストに関する社会人を対象とした調査の実施、暫定版CSCEリストの作成までが終了している。暫定版CSCEリストは全て年収と職務満足度と関連が示されている項目群であり、キャリア教育で育成すべき強みとして、義務教育年代から育成が望まれるものであると考えられる。一方、社会人を対象としたCSCEをそのまま義務教育年代に実施するには、CSそのものの理解度や、学校現場で発揮可能な強みであるかなど、小中学生が理解できるレベルに文言や内容を調整する必要性がある。 ②「キャリア教育プログラムの開発」について、1年目でプログラムの開発とともに、教員や大学生に試験的にプログラムを実施し、評価と修正を行い、義務教育年代に実施可能な形式への調整を行った。2年目にはキャリア教育に関するこれまでのレビューを実施した。その結果、日本の義務教育年代のキャリア教育は欧米と比べて実際の現場での実践、ならびに個々人の特性に合わせたプログラムが少ないため、実践的で個々人の特性に合わせたキャリア教育の必要性が判明した。さらに大学生に対して実際にプログラムを実施した成果を検討した結果、CSの活用感や自覚度を高めるプログラムは、キャリア形成や就職活動への前向きな姿勢を高めることが判明した。今後はプログラムを小中学校の授業内容等に合わせた調整が必要となる。 ③「教員側の要因の調査」について、2年間で教員が子どもの強みを見出す傾向に関する調査を実施した。その結果、学生よりも現職教員の方が子どもの強みを見出そうという感情的側面が強いことが判明した。今後は、教員のメンタルヘルスや、強みそのものを育成する際の困難感等、教員が持つ様々な要因がプログラムに与える影響について多角的に検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2022年度は,CSCEリストの完成、ならびに具体的な介入プログラム完成を目標とする。なお、新型コロナウィルス感染拡大の影響により小中学校でのアンケート実施やプログラム実施に関して困難が予想されるため、他の年代(大学生や社会人)を対象としたプログラムの実践と効果検証や、義務教育年代の現職教員との協議によるCSCEリストを実用的に利用できる形に修正する手続きが必要となることが予想される。 ①「CSCEリストの作成」として、これまでの成果で作成された暫定版CSCEリストについて、小学校と中学校のそれぞれのバージョンを作成する。小中学校の現職教員がCSCEリストを実際に確認し、子どもたちが理解可能な文言や内容への修正、ならびに発達状況に合わせた説明文章の作成を行う予定である。このような過程を経て修正されたリストについて、実際に小中学生を対象に調査を行いたい。 ②「プログラムの作成」について、CSを使った既存のキャリア教育プログラムを大学生に応用したものを基礎として、小中学校の実情に合わせたプログラムを作成する。小学校は比較的プログラム実施の自由度が高いが、キャリアを意識した活動そのものが少ないことから、「仕事活動」といった仕事を意識した既存のプログラムを取り入れながらプログラムを作成する。中学校ではプログラムを実施する時間の確保が困難なことから、朝の会などの短い時間内で繰り返し活用できるようなミニワークを継続して行うプログラムを作成したい。 ③「教員側の要因の調査」として、既存のTSSと教員の精神状態(バーンアウト等)との関連の検討、ならびにCSを学校現場で育成する際の育成困難感などを調査し、強みに関する教員側の意識や状態像を詳細に分析することで、プログラムの効果を促進できるような調査を行いたい。
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Causes of Carryover |
本年度は小中学校の教育現場にてCSCEリストを使った調査、ならびに介入プログラムを実施するために現地での予備調査、ならびに国内外の学会発表を行う予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大を受けて、実地調査がほぼ全て実施不可能となったため、出張と会議費用が全て次年度に繰り越しという形になった。一方、調査内容を変更し、CSCEリスト作成のためのオンライン調査を中心に使用額の修正を行った。 次年度に向けた使用計画としては、新型コロナウィルス感染拡大の影響は避けられない状況であるため、最悪の状況として実地調査が困難であることを予想し、オンラインによる調査を中心に行う予定である。また、オンライン調査会社やオンライン介入モジュールの活用によって、多様なチャネルを用いてCSCEリストの精緻化、キャリア介入プログラムのオンライン上での実施などを検討したい。なお、成果発表については次年度は国内外の学会発表が再開される予定であるため、多くの学会にてこれまでの研究成果の発表を行う予定である。
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