2020 Fiscal Year Research-status Report
注意分割を伴う気晴らし技法が注意視野と反すう思考に及ぼす影響の検討
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20K14197
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
石川 遥至 早稲田大学, 文学学術院, 助教 (60822955)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 反すう / 注意の分割 / 抑うつ / 注意視野 |
Outline of Annual Research Achievements |
ネガティブな内容について繰り返し考え続けてしまう「反すう」は,注意を向ける範囲(注意視野)が狭まった状態で特定のネガティブな対象のみが焦点化され,その他の情報を処理できないことで生じることが示唆されている。これまで,この反すうに対する主な対処として,ネガティブでない情報に注意を向け換える「気そらし」が提唱されてきたが,注意の転換は必ずしも注意視野の狭まりそのものへの直接的な介入とはならない。さらに,注意を転換が抑うつを助長しうることも示されている(石川, 2020; Ishikawa & Koshikawa, in press)。そこで申請者は,注意視野の拡大に関わるプロセスとして,複数の対象に注意を分割することの効果を検証している。 2020年度は,反すうが抑うつに及ぼす影響,およびこの影響に対する注意制御能力(選択的注意・転換的注意・分割的注意)の調整効果を2時点(t1,約3か月後のt2)でのオンライン調査によって検討した。分析対象となったのは申請者の所属する大学の大学生・院生150名であった。 この結果,t1の反すう特性からt2の抑うつには正の影響がみられ,さらにこの影響が3つの注意制御能力によって調整されていることが示された。選択的注意(1つの対象に集中し続けるスキル)あるいは分割的注意が高い場合には,t1の反すうからt2の抑うつへの影響はみられないのに対し,これらの注意制御能力が低い場合にはt1反すうからt2抑うつへの正の影響がみられた。一方,転換的注意が高い場合にはt1反すうからt2抑うつへの正の影響がみられ,このスキルが低い場合には影響がみられなかった。 以上より,注意の分割スキルは反すうの生じやすさによる(約3か月後の)抑うつの上昇を防ぐこと,注意の転換スキルは逆に,反すうの生じやすさによる抑うつの上昇を助長しうることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度はオンライン調査に加えて対面実験を行う予定であった。しかしながら,新型コロナウィルス感染症の感染拡大に伴い,研究実施場所である大学において実験対象者である学生の入構に制限が課され,当初計画していた対面での実験は行うことができなかった。実験の性質上(抑うつ気分の喚起等によるリスクへの対処,および実験手続きの教示の観点から),非対面形式で実施することは困難であるため,2020年度の実験の延期はやむを得ないものであったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は,まず予定通りに社会人を対象としたオンラインの縦断調査を実施する。2020年度の大学生を対象とした調査で得られた結果は本研究の仮説を支持するものであり,同様の結果が社会人においてもみられたとすれば,より一般化可能な有用な知見となる。これに加えて,もし状況的に可能であれば,2020年度および2021年度に予定していた対面実験も併せて実施する。 ただし,依然として新型コロナウィルス感染症に収束の兆しは見えず,実験参加者を募ったとしても十分な数の学生を集めることが難しい可能性は考えられる。さらに,今後また研究実施場所である大学の入構に制限がかかる可能性も否定できない。この場合,当初の計画を2021年度までに完遂することは困難であり,対面接触の機会を減らすように実験デザインを変更した上で研究期間の延長を行わざるを得ないと考える。
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Causes of Carryover |
2020年度に計画していた実験の参加者謝金,実験補助者の人件費,質問票の印刷用紙等の消耗品の費用として計上していた分が,当該年度に新型コロナウィルス感染症の影響で実験を実施できなかったために次年度使用額となった。また,2020年度に開催予定であった国際学会も延期となり,その参加費分も次年度使用額に含まれる。 延期した実験は2021年度に実施することを予定しており,次年度使用額はこの実験の遂行に使用する。また,延期された国際学会は2021年度の開催が決定しているため,その参加費としても次年度使用額を用いる。翌年度分として請求した助成金は,当初より2021年度に実施する予定であった実験,およびオンライン調査の費用として使用する。
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Research Products
(2 results)