2020 Fiscal Year Research-status Report
漢字表記語の読みにおける形態ー音韻間の相互作用メカニズムの解明
Project/Area Number |
20K14261
|
Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
楠瀬 悠 広島修道大学, 健康科学部, 講師 (50732690)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 同音語数効果 / 音韻親近性効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,漢字表記語における形態-音韻間の処理プロセスについて4つの研究を基に,行動実験と生理指標を同時に測定することで検討することを目的としている。本年度はこの中で,同音語数の効果について検討した。この研究に関して,Hino, Kusunose, Lupker, & Jared (2013)は,日本語の漢字二字熟語を用いた語彙判断課題を行い,同音語に対する促進効果と抑制効果を報告しており,同音語に対する抑制効果は同音語が単一の同音語のみを持つ場合に生じる現象であるのに対して,同音語に対する促進効果は複数の同音語を持つ場合に生じる現象である可能性が高いとしている。 本研究はこの実験の再現とともに,同時に生理指標であるERPの測定を行うものであるが,本年度は現在の状況により,同音語数の効果に関する行動実験のみを行った。この実験では,同音語多条件,少条件,無条件という3つの条件について,ERP測定実験のために新たな刺激を作成した語彙判断課題と音読課題を行ったところ、語彙判断課題では同音語数の多寡による効果は観察されなかった。一方で,音読課題では同音語による促進効果が観察された。まず,語彙判断課題の結果に関しては先行研究の再現が出来なかったことから,再度の検討が求められる。一方で,音読課題における促進効果は,同じ音を持つ音韻情報が多く活性化することによってその音読が速くなったものと考えられる。 この研究に加えて,予定を変更して音韻親近性効果の検討についての行動実験を行った。この実験では,漢字語の音韻隣接語を用いて音韻親近性の多寡を操作した語彙判断課題を実施した。その結果,音韻親近性が高い条件の方が低い条件よりも有意に反応時間が短くなることが分かった。この結果は,音韻レベルの親近性が高くなったことから,漢字語の“単語”判断が容易になったことによって観察されたものと思われる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究概要の実績にも示したが,本年度は同音語数の効果に関して,行動実験による再現とERP測定を行う予定であった。しかし,研究代表者の環境の変化,そして現状のような社会状況の変化によって,これらの実験をすべて行うことが難しく,結果的に行動実験のみの測定となってしまった。特に,ERP測定実験については実験参加者に実験機器のセットやその後の対応が必要であり,非常に接近した形での実施となるため,対策も含めて現状では実施が困難となっている。このため,その他の研究における行動実験を先行して行うこととしたが,こちらも現状,実験参加者を集めることが難しくなっているため,あまり多くの実験を行うことができなかった。また,行動実験の結果に関しても先行研究と異なる結果が観察されたことから,再度の実験・検討が必要であることから,やや遅れていると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究で行う語彙判断課題や音読課題などの実験は,ms単位を正確に測定する必要のある反応時間測定実験であるため,PCの応答速度などの問題からオンラインで実施することが難しいと思われる。そのため,実際に実験参加者に来てもらい,適切な機材を用いて実験を行うことが必須である。このような環境的問題そして社会的な現状から,この状況が収束しない限り,多くのデータを収集することは困難なことが推測される。 本研究で実施する4つの研究では,各年に1つの研究テーマについて行動実験とERP測定実験を同時に行っていくことを想定していたが,上記にも示したようにERP測定実験の実施が難しいと考えられるため,今後は可能な限り行動実験を優先して研究を行っていこうと考えている。このため,4年の研究期間のうち,先の2年を行動実験にあて,少しでも状況が落ち着く可能性の高い,後半の2年をERP測定実験に変更することで研究の推進を試みたい。当然,行動実験についても現状多くを実施できるわけではないが,よりリスクの低い行動実験を,大学の方針やその時の状況の中で最大限に対応しつつ実施したいと考えている。
|
Causes of Carryover |
本年度は新たな大学に赴任したこと,この社会状況から想定していた人件費の支出がなく,また謝金についても同様に実験参加者の募集が困難であったことから,可能な限り個人的な繋がりを使い,好意によって短い時間だけ協力してもらったことから謝金は発生しなかった。また,旅費についてはこの社会状況によりオンラインでの開催となったことから発生していない。以上の理由から物品費以外の支出はなく,次年度へと持ち越しとした。 翌年度はアルバイトの確保,また謝金を用いた実験参加者の確保が可能となったことから,その部分へ中心的に本年度の繰り越し分を回したいと考えている。加えて,オンラインでの実験実施が可能であるようなら,その設備構築のための物品費としたい。
|
-
[Presentation] Is Stroke Neighbor Priming Effect Inhibitory or Facilitatory? An Investigation using Chinese Hanji and Japanese Kanji Characters.2020
Author(s)
Deng, P., Kusunose, Y., Yoshihara, M., Lupker, S., Hino, Y., & Nakayama, M.
Organizer
61st Annual Meeting of the Psychonomic Society
Int'l Joint Research