2022 Fiscal Year Research-status Report
漢字表記語の読みにおける形態ー音韻間の相互作用メカニズムの解明
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20K14261
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Research Institution | Kagoshima Immaculate Heart University |
Principal Investigator |
楠瀬 悠 鹿児島純心女子大学, 人間教育学部, 准教授 (50732690)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 同音語数効果 / 音韻親近性効果 / 音韻-形態間の一貫性効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,漢字表記語における形態-音韻間の処理プロセスについて,同音語数の効果の検討,音韻-形態間の一貫性効果の検討,音韻親近性効果の検討,形態隣接語数効果の検討の4つの研究を基に,行動実験と生理指標を同時に測定することで検討することを目的としている。本年度はこの中で,行動実験として実施できていなかった研究4である形態隣接語数効果について,音韻隣接語数を統制し,形態隣接語数のみを操作した語彙判断課題及び音読課題を実施して検討した。この結果,語彙判断課題では形態隣接語数が多い条件の方が少ない条件よりも反応時間が速くなるという促進効果が観察された。一方で,音読課題においては,形態隣接語数が少ない条件の方が多い条件よりも反応時間が速くなるという抑制効果が観察された。この結果について,語彙判断課題では多く活性化した形態隣接語から,多くの音韻レベルの活性化が生じる。その後,音韻レベルから形態レベルへのフィードバックされることにより,心的辞書全体の活動レベルが高まり,“単語”判断が容易になったものと思われる。一方で,音読課題では,形態隣接語が多い条件において多くの音韻レベルの活性化が生じることで音読が遅くなり,一方で形態隣接語数が少ない条件では音韻レベルの活性化が少ないことにより音読の実行が速くなった可能性が考えられる。 また,昨年実施した音韻-形態間の一貫性効果の検討に関連して,漢字語の音韻隣接語を用いたマスク下のプライミング効果について,語彙判断課題と音読課題を用いて検討したところ,両課題において促進効果が観察された。この結果はカタカナ語プライムによって漢字語ターゲットの部分的な音韻情報が活性化され,漢字語ターゲットの語彙判断および音読の処理を促進したものと思われる。これらの音韻隣接語に関する研究について,日本心理学会第86回大会にて発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度は研究4に加え,研究1・2のERP実験を行う予定であった。しかし,2021年度と変わらない,コロナ禍における大学方針や参加者の意識の中で,特に実験に関する安全面の問題から実験参加者の確保が難しかった。また,勤務大学の変更に伴い,新たな環境における環境整備を行う必要があったこと,新たな大学において学生数が少ないことから実験者の確保が難しかったこと,並びに新たな大学に心理実験室がなかったことによる実験環境の確保が必要であったことなどから,実験実施までに時間が大変かかることとなった。そして,ERP実験を協力してもらう予定であった教員がサバティカルにより実験協力を仰げず,ERP実験が実施できなかった。以上の点から,遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
例年同様,本研究で行う語彙判断課題や音読課題などの実験は,ms単位を正確に測定する必要のある反応時間測定実験であるため,応答速度などの問題からオンラインで実施することが難しい。そのため,実際に実験参加者に来てもらい,適切な機材を用いて実験を行うことが必須であるが,2023年度も新たな大学に赴任したところでその整備にも時間がかかる可能性が高い。しかし,ERP実験の協力者がいる東京の大学に勤務できたこと,またコロナ禍における行動制限は解除されたことから,残されている実験は推進していけるものと考える。一方で,4つの研究におけるERP実験がそのまま残されていることから,かなりの時間を要するものと考えられる。このことについては,研究期間を1年間,延長することで対応したいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度も昨年度分を繰り越していたことに加え,職場環境の問題上で実験参加者を集められなかった,人件費・謝金ともに多くかかるERP実験を実施できなかった,といった理由から,想定していた以上の支出はなく,例年度と同様に次年度へと持ち越しとなった。 翌年度は再度,新たな大学に赴任したことから実験設備を整備する必要があるため,これらの備品代にある程度を充てたい。加えて,ERP実験を他施設にて開始したいと考えているため,それに係るアルバイト代や謝金に充てたいと考えている。
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Research Products
(1 results)